3話
クレインワース子爵家はイスタリア王国に属しており、王都から少し離れた場所に領地を持つ中堅貴族である。イスタリア王国は大陸でも5指に入る大国であり、エルフやドワーフをはじめとする亜人種も多く住んでいる多種族国家である。最深部には厄災級の魔物が跋扈すると言われている死の森に接しており、またいくつかの迷宮も持っているため、冒険者が数多く存在し、その存在価値も高い。そんな土地柄騎士団や魔法師団といった軍も精強であり、土地の面積はあまり広くないが大国として名を連ねている。
レオンの暮らすクレインワース領は他国に接している訳でもなければ何か突出した魅力がある訳でもない普通の領地である。強いて言うなら、綺麗な景色が広がっており、安定した領地運営をしているため住みやすく過ごしやすいといった所だ。
レオンはそんな領地で、記憶を取り戻してから2年の月日を過ごしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ローゼ、今日はここまでにする。タオルを取ってくれ。」
「はい、どうぞレオン様。お風呂の準備もできております。」
「ありがとう、じゃあ汗を流しに行くよ。」
この2年の間にレオンは様々な戦闘訓練を行い急成長を遂げていた。
転生の影響か魔力量も大幅に上がり、この2年の鍛錬により身体能力も向上した。
1年ほどの鍛錬の後、魔物の討伐も積極的に行い実践経験を積んだ。その為体には至る所に傷跡が残っている。
回復魔法によりすぐに治療すれば傷跡をなくす事もできたがレオンはそれを拒否した。
前世の影響か、傷を残す事で自分の未熟さを実感したかったのだ。
かなりの格上と遭遇し片腕を引きちぎられるなどの大怪我をした時にはローゼも流石に許してくれず、回復魔法によりくっつけたが。
あの時からレオンはローゼを怒らせるのはドラゴンに襲われるよりも怖いと思っている。
「(レオン様は本当にお強くなられた。やはり2年前のあの日、何かがあったのでしょう。突然見た事もないような過酷な訓練を始めた時は驚きましたがまさか2年でここまでになるとは正直思ってなかったですね。そこまでの才能はなかったはずなのですが。そのうち何があったのか話していただける日はくるのでしょうか?)」
汗を流しに行くレオンの背中を見ながらローゼはこの2年の事を思い出していた。
12歳になったレオンはこの春から学園に通う事になっている。
イスタリア王国の貴族の子は12歳から王都にある学園に通い、様々な事を学ぶとともに人脈を広げるのが基本的な進路となっている。
しかしこれも絶対ではない。
長男は貴族位を継ぎ当主となる為、人脈を広げるの為に学園に通う事が必須となっているがレオンは三男でありその必要がない為学園には行かず、そのまま冒険者になるつもりである。
そして今日両親とその話し合いが行われる。
「レオン、本当に学園には通わないのかい?」
「はい、父上。俺は三男なので領地を継がないし学園に通うのではなくこのまま冒険者としてやっていこうと思います。」
「学園を卒業してからでも遅くないんじゃないの?この2年でレオンがすごく努力してたのはわかるんだけど、それでもまだ12歳なんだから。学園での経験もあって損はないと思うんだけど。」
「母上、俺は早く冒険者として一人前になりたいのです。その為にも学園に通わずそのまま冒険者としての経験を積みたいのです。」
「そうか。確かに同年代にレオンの相手ができるものもいないだろうしなぁ。本当にいいんだね?」
「はい、父上。学園入学予定だった2ヶ月後には家を出ようと思います。」
「分かった。入学は取り消しておくよ。ここで冒険者をするつもりかい?ここは平和だからあまり冒険者の仕事は多くないと思うけれど。」
「いえ、ここではなく死の森と迷宮があるデライザの街に行こうと思っています。」
「あぁ、デライザか。冒険者の街って言われている所だね。確かにあそこなら依頼は沢山あるだろうしね。」
「デライザってあまり治安が良くないけど大丈夫なの?それに死の森の近くで魔物も強いし、私心配だわ。」
「大丈夫ですよ母上。冒険者の街って言われるだけあって、冒険者には過ごしやすい場所のようですから。まぁ貴族はあまり近寄りたがりませんがね。」
こうしてレオンは2ヶ月後、家を出て冒険者として歩んで行くこととなる。