1話
「ここは、、、どこだ?」
気がつくと見覚えのない景色が広がっていた。
周りは高い木に囲まれ、艶やかな黒髪の中性的な顔立ちをした少年の立つそこだけ日の光に照らされている。
すると、ガサガサと森の中を歩く音と共に若い女の声が聞こえて来る。
「レオン様、こちらにいらっしゃったのですね。皆心配しておりますよ。1人での行動は謹んでください。」
そちらを向くと、メイド服に身を包んだ綺麗な黒髪の女性が立っていた。
「あ、あぁ、すまない、どうやら寝てしまっていたようだ。」
幼い少年の声でそう自分の口から言葉が出たことに、その少年、レオンは少し困惑しながらそう答えた。
「屋敷の方に戻りますよ。もう昼食の時間です。皆様お待ちですのでお早く。」
「分かった、すぐ行こう。」
そう言い、メイドと共に歩き始めた。
「(これは、どういうことだ?
俺はレオンと呼ばれたことに疑問も抱かず返答していた。
自分の名前を覚えてはいない。
だが、全く違う生活をしていたという記憶は存在する。
転生と言うやつか?)」
レオンと呼ばれたその少年はそんなことを考えながら屋敷へと戻った。
戻ってすぐ食堂に向かうとそこにはすでに昼食が並んでおり、2人の男女が座っていた。
「レオン、時間になっても来ないから心配したんだよ?」
男の方がそう、レオンに言った。
「遅れて申し訳ありません父上。森の中で寝てしまっていまして。」
そう言って席に座ると女の方が口を開いた。
「いくら定期的に魔物を狩っているとはいえ、1人で森の中に入るなんて危ないわよ。今度からはちゃんと誰かに言うようにね?」
「はい、母上。次からは誰かに言ってから行動するようにします。ご心配お掛けしました。」
「そうしてちょうだいね。
さあ、お説教はこれくらいにして食事にしましょう!私もお腹すいたわ!」
母がそう言うと食事が始まった。
食事が終わるとレオンは自室に戻り、椅子に座り思考を始める。
「(俺はレオン。レオン=クレインワース。クレインワース子爵家の三男だ。だが、この記憶はなんだ?やはり転生というやつか?記憶を持って転生したんだろう。なぜかはわからないが。レオンとして生きた10年の記憶は全て思い出した。まあ考えても分からないことは仕方ないし、これまで通りレオンとして生きていこう。しかし、前世の方が生きた年数が多いせいか性格とかが引っ張られている気がするな。まあレオンも大人びた少年だったからあまり違和感がないことが幸いだな。)」
コンコン。
「レオン様、お茶をお持ちしました。入ってもよろしいですか?」
「いいぞ、入れ。」
「失礼します。お茶をお入れいたします。ところでレオン様、森の中で何をなさっていたのですか?」
そう言って入ってきたのは、先程レオンを探しにきていた黒髪のメイドだった。
「安全だと聞いて森の中に散策に出たんだが、日の当たる気持ちのいい場所を見つけて座っていたら寝てしまっていたようだ。迷惑をかけたな、ローゼ。」
メイドのローゼことローゼリアはレオンの専属メイドであり、綺麗な長い黒髪の少しキツそうな顔立ちをした美人である。クレインワース家のメイドの中でも凄腕のメイドでありなぜレオンについているのかはレオン自身、少し疑問に思っている。
ローゼに入れてもらった茶を飲みながらレオンはこれからの事を考える。
この世界は魔物と呼ばれる危険な生物がそこかしこに存在する。
また野盗などもおり前世に比べてかなり危険の多い世界である。
そして、それに対抗するように魔法という魔力を用いた戦闘手段が存在する。
魔法は戦闘だけでなく生活にも多大な影響を与えているほど、なくてはならないものだ。
魔力は多かれ少なかれ誰でも持っており簡単な魔法ならば誰でも使うことができる。
ただ戦闘に使えるほどの強力な魔法となると鍛錬が必要となってくる。
レオンも貴族なので家庭教師がつき鍛錬を行なっている為そこそこの魔法は使える。
ただそれでもまだ10歳の少年だ。
まだまだ大人には勝てないし勝てるのは弱い魔物くらいだろう。
魔力はもともと多い方だった為将来は魔法師団に入れるのではとクレインワース家では言われている。
レオンは三男である為領地を継がない。
その為レオン自身も魔法師団に入隊する事を夢見ていた。
しかし今のレオンは宮廷魔法師ではなく冒険者を目指そうと考えている。
「(前世の名前も家族や友人の事も覚えていないが特殊部隊の隊長として戦闘する日々を送っていた記憶はある。せっかくの第二の人生だ。家に縛られる事もないのなら自由に冒険者としてやっていきたい。
まずは戦闘訓練だな。やっていたとはいえ10歳の少年がやる事だ。正直言って生ぬるい。冒険者として活動するのならば魔法だけでなく近接戦闘も鍛えなくては。
幸い前世の経験は覚えている。数多の分野に手を出していてよかったと今なら思えるな。前世の俺は部隊の中でもトップの戦闘能力を持っていたのだし、これから鍛え上げれば家を出る頃にはそこそこにはなっているだろう。)」
レオンは翌日から修行を開始することにした。