ラブレターとひとみ先輩(後日談)
少しここに居させて。そういうひとみ先輩を置いて、僕と新田原は図書室を出た。
「なぁ、あれが正解なのか?」
「正解?」
「ラブレターの真実」
「そんなことわからない。私は自己満足で事件を解決するだけなの」
「……なぁ、それで誰が幸せになるんだ?」
僕は純粋な好奇心で訊いた。
「誰も幸せにならないよ」
新田原の表情が憂いを帯びた。
「だから私は自己満足のためだけに事件を解決して誰も傷つかないようにしているだけなの。本当はスパイクの時みたいに事件に関わっている人とは関係のない場所で、私の娯楽として事件を解決したいんだけどね。あなたとひとみ先輩には深く関わりすぎた」
新田原は一歩前に踏み出す。
「だからもう私には関わらない方がいいよ。私が本当に本気で事件を解決してしまったら、私の自己満足だけで終わって、他の人はみんな傷ついて、壊れて終わってしまう」
新田原の背中が遠ざかる。
「私は本当の意味で事件を解決できない。あなたは人らしい青春を送れない。そうやって、ここで生きていくしかない」
新田原が残した言葉が、僕の背中に重くのしかかった。
結局、僕も新田原も、誰にも理解されないものを抱えているのだろう。
僕は最後まで何も言えなかった。
× × × × ×
夏休み中に、たまたま駅前で竹之内先輩を見かけたことがあった。
竹之内先輩の顔は卒業アルバムでちらりと見ただけだったが、僕の記憶には竹之内先輩の顔がしっかり残っていた。
竹之内先輩は彼女と思われる女性と手をつないでいて、楽しそうに笑っている。
竹之内先輩がこちらに向かってくる。
僕と竹之内先輩がすれ違う。
そして、僕は聞いてしまった。竹之内先輩が、手をつないでいる彼女のことを「ひとみ」と呼んでいるのを。
僕はある可能性に辿り着いた。
あのラブレターは竹之内先輩の横にいるひとみという女性に出すつもりだったもので、ひとみ先輩宛のものではなかったということ。そして、ブレターは一年前にきちんとひとみと呼ばれる女性に届いて竹之内先輩の恋が成就したこと。あのラブレターは本物の下書きか何かでたまたま捨てるのを忘れ学校の中に残っていて、誰かがそれを見つけ、親切心からひとみ先輩の靴箱に入れ、同じ名前のひとみ先輩元へ辿り着いたのではないかということ。
考えれば考えるほど、その可能性が大きいように思えた。
真相はわからない。ひとみ先輩は竹之内先輩のことは自分でけりをつけてしまったし、竹之内先輩は彼女がいる。今さら真相がわかったところで、誰も幸せにはなりはしないだろう。
振り返ると、竹之内先輩の姿はすでになかった。
(新田原の言うことが少しだけわかったかもな)
僕は七月からずっと強いままの日差しの中を、汗を流しながら歩き出した。
セミの声が空に吸い込まれて、大きくなりすぎた入道雲が綿あめに見えるようなそんな天気だった。
次回は11/21更新です