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六月の雨と上伊田カメラ(後日談)

 新田原が立ち去り、部室には僕とひとみ先輩が残った。

「ねぇ、ひとつ疑問があるのだけど」

「なんですか?」

「このカメラを君にあげるつもりだったとして、どうして四日前に――テストで部室の鍵を借りるのには申請書が必要になる期間の直前に、カメラをここに置いたのかしら?」

「それは……」


 その先が続かなかった。しかし、真相がはっきりしてしまった今は「たまたま」で片づけることしかできない。


「偶然としか言えないんじゃ?」

「そう」


 ひとみ先輩は短くそう言った。


「なんだかつまらないね」

「そうですか?」

「結局、上伊田先輩が城野君にカメラをあげるためのことに、私は悩んでいたんだから」

「それもそうですね」


 僕は思わず苦笑いした。先輩は最初から最後まで何も関係なかったのだ。


「さて、家に帰って勉強でもしようか? 一応テスト前だし」


 僕とひとみ先輩は並んで部室から出た。何気ない会話をしながら、職員室に部室の鍵を返し、靴を履き替えて、駅前でひとみ先輩と別れた。


 今にも雨が降りそうな曇天の中、僕は上伊田先輩のカメラをバックに忍ばせて駅より少し先にある自宅へ向かう。雨が降る前に帰ろうと急いだ。


×   ×   ×   ×   ×


 それから年が明け、長い冬が終わった三月半ばのこと。北清瀬高校では卒業式が行われていた。


 スポーツ大会やその他もろもろの行事と同じように写真を撮るために、僕は一人カメラを持って、卒業式の会場である体育館内をうろうろしていた。


 式中の写真を無事カメラに収め、外に出る。手に卒業証書が入った筒を持った三年生たちが三年間を振り返り涙したり、笑いあったり、これからについて語り合っていた。


 そんな三年生たちを写真に収めようと、カメラを構えたとき、窓越しに上伊田先輩が写った。


 上伊田先輩とカメラ越しに目があった。僕は持ち上げていたカメラを下ろし、もう一つのカメラ――上伊田先輩のカメラを構えた。

 すると、上伊田先輩は変な表情をした後、呆れたように笑って僕に背を向けた。


 その時、僕はもうだいぶ前に聞いた、新田原の推理が本当は違っていたのではないかと感じた。


 カメラは僕に渡すものではなく、いつかやってくる後輩のために置いて行ったのではないのか。

その後輩が、このカメラを手にする時、誰が使っていたのかわかるように名前を書いておいたのではないか。


 テスト前に部室に置いたのは、テストが終わった後再び部室にやってくる写真部員たちにカメラが置かれていることをわからなくするためで、本当にまだ名前も知らない後輩にカメラを発見してもらうためではなかったのかと。


 しかし、この先二度と真相を知ることはないだろう。上伊田先輩の後姿は三年生たちの群れに紛れて遠くなっていたし、未だに僕のことを知らないのだとしたら、いきなり知らない後輩に話しかけられても迷惑だろうし、卒業気分に水を差すだけだ。


 だから、僕はこの日のために持ってきた上伊田先輩のカメラで、限界まで上伊田先輩の後姿をズームして、シャッターを切った。

 このカメラが上伊田先輩のものだと証明するように。

次回は11/18更新です

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