夏と恋と青春の温度(後日談)
それから年が明けた三学期の始業式のこと。
体育館の冷たい床に震えながら校長先生の話を聞いていると、ふと女子生徒二人の話声が聞こえてきた。
「知ってる? 転校した秋本彩音っていう二年生の話」
「あー知ってる。あれでしょ? 陸上部のエースの椎田先輩をなんかの事件? の犯人に仕立てあげようとしたってやつ?」
「そうそれ! あれひどくない?」
「ひどいよね~あれってさ、木島奈緒? っていう先輩がふられたから復讐したんでしょ?」
「えっ? 私は秋本先輩がふられたからだって聞いたよ?」
「えっ? そうなの?」
「うん、秋本先輩も去年の一学期の終業式に告白して振られたんだって」
「そうなんだ! てか、何それ。秋本先輩は自分の復讐のために木島って人売ったってことでしょ?」
「だよねー。陸上部ってドロドロだね」
女子生徒がくすくすと笑いあう。それを目ざとく教師が見つけ、注意する。女子生徒たちは不満げな顔をしながら口を閉じた。
秋本先輩も椎田に告白していた? それは事実なのだろうか? それが事実だとしたら秋本先輩は本当に親友の木島先輩のために復讐をしたのだろうか?
真相はわからない。秋本先輩は罪を着せられなかった代わりに他校に転校してしまった。もう二度と会うこともないだろう。木島奈緒のことも僕は知らない。調べれば誰かは判明するかもしれないが、知り合いでもない僕に真相を反すことはないだろう。そうすれば真実を聞く機会はない。
校長先生の話が終わり、まばらな拍手が震動となって体育館の密閉された冷たい空気を揺らす。
僕は体育館の天窓を見つめる。天気は今にも雪が降り出しそうな曇天だった。空はあの夏の暑さを忘れてしまったようだ。