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作者によって「純文学」という名前をつけられた作品たち

檸檬の樹の枝には希望が引っかかっている

作者: レモネード・イエロー

なんだか訳のわからない空想をこねくり回してみました。

特に意味のあるものではございません。


 檸檬の樹の枝には希望が引っかかっている! これは信じていいことなんだよ。



 檸檬の樹の枝には希望が引っかかっている。

 もっともこれは、桜の樹の下には屍体したいが埋まっているという事実ほどたしかなことではないがね。だが、たしかなこと以外信ずるべきでないというならば、俺たちは小説なんて読めやしないじゃないか。少しでも信ずることができなければ、一ページだって読み進められるもんじゃあるまい。これは単に、小説のことを言ってるんじゃあない。この場合の小説というのは、例えば人の一生と言い換えても差し支えないだろうね。


 信ずるというのは何も、真実であると本気で思うことじゃない。無論、リアリストにとっちゃあそうなのかもしれんがね。わからないかい、鈍いね、君も。それじゃひとつ、妖精を例にとって考えてみようじゃないか。

 妖精を信ずるとは、いかなることか。それは妖精を見るということであって、その妖精の存在を明確に認めるということじゃない。現に俺は、妖精なんぞいないと思っているがね、ほら、そこに射し込む光のすじが見えるだろう。綺麗にほこりが舞っているじゃあないか。俺はあの中に、妖精の王オーベロンを見ることができる。彼に仕えるいたずら好きのロビン・グッドフェローだって見える。それから、魔法によってロバ頭の職工しょっこうに惚れ込んでしまった見目麗みめうるわしいティーターニアだって、見ようと思えば見えるのだ。

 そうしているうちに、ほら、俺の目の前に埃が集まってきた。そうして突然、埃は真っ赤なオキアミに変わって俺の大口へと入り込んでくる。俺はいつの間にか、真っ黒なクジラになっていて、頭上には屋根などなく、どこまでも広がる真っ青な天空が広がっているのだ……!


 おや、まだ君は怪訝けげんそうな顔をしているね。なあに、君にもいずれわかるさ、俺の今言ったことが正しいとね。

 しかし、俺のように自在に空想を操り、信ずることができるようになるまでには時間がかかる。初心者はまず、希望を探すことから始めるんだね。希望なんていうのは突拍子もないものじゃあない。妖精なんかと違って、あるともないともいえないものだからね。そういうものは大抵たいてい、風の中にあるんだね。だが、風の中を探すとなると途方もなく難しい。見つけたと思ってもすぐに消えてしまう。だから例えば、ほら、裏の庭に立っているあの檸檬の樹の枝にでも引っかかっていると思えばいい。ちょうどあの樹はいい感じだ。下から手を伸ばしても、また、二階のベランダから手を伸ばしても、あと少しのところで届かないだろうからね。どうだい、試しに探しに行ってみるかい。とにかくあれなら、君にも信じやすいだろうと思うよ。



 いいかい。檸檬の樹の枝には、希望が引っかかっているんだよ。






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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルが秀逸です。 [一言] キリギリスの演奏は遊びではない。 この小説を読んで思いついた迷言(笑)。
[一言] 私は子供の頃、空想にふけって物語を作るのが好きでした。ですが、大人になるにつれて空想がかすんでいき、常識や知識が邪魔をして、今では自由な想像ができていないように感じます。 この小説を読んで、…
[良い点] 物語の構成が、某小説で笑いました。こっちはとにかく明るいなあ。 [一言] 確かに妖精は見ることに意義があるのかも。 檸檬の木には、希望が引っ掛かっている! ああ、でもパンドラの箱のよう…
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