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iF~失われた心臓~  作者: このは
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動く物語

『彼女』は願った。

いつまでも、あのおかしくてイカれた世界に居たいと。

結果、『彼女』は鍵を手にいれた。

夢の世界への扉を開く鍵を。

そして代償に『殺意』を与えられた。

『彼女』は満月の夜、その『殺意』を満たしにやってくる。

今夜は満月。

『彼女』がお腹を空かせてやってくる。

さぁ、準備をしなくては。

イカれた『お血ゃ会』の準備を──。


メイジーはグレーテルの言葉に不安を覚えながらも、疲れのせいかぐっすり寝入ってしまった。

起きたときにはもう夕暮れ時。

体はだるく、頭も少し痛い。

とここでメイジーは違和感を覚える。

何かが足りない...。

「...ずきんがない。」

メイジーが赤ずきんたる所以ゆえん

それがないわけだ。メイジーは動揺した。

「おばあちゃんがつくってくれた、大事な大事なモノなのに...。」

メイジーは部屋の扉をゆっくりと開け、繋がった部屋を覗き込んだ。

暖炉に大きな机、それを囲む木の椅子。

そして、ちょうど食器を並べるグレーテルの姿があった。

「おはよう。すっきりしたかい?」

「ええ。おかげさまで。なんとお礼を言えば良いか...。」

メイジーは改まり、深々とお礼をした。

「やめてくれよ、私たちはもう友だ。」

「友...。」

メイジーはその言葉に不思議な感覚を持った。

今思えば、友達などいなかった。周りにいるのは小鳥や蛇、お母さんに狼さん...。

「今、私は『嬉しい』のかしら...。」

未知の経験にメイジーはそう口を動かした。

「それはメイジー、『君』が決めることさ。」

グレーテルは澄んだ笑顔で答えた。

「私が...決める──」


トントントン


そんなとき、ドアを叩く音が部屋に響いた。

「メイジー。今日、君はひどい目に合うかもしれない。だが、それは私にもどうしようもないことだ。」

グレーテルの言葉に「?」と首をかしげて、メイジーは来客者の方へ視線を送った。

グレーテルがドアを開く。

そこには少女がいた。

金髪、蒼い眼。ひらひらした服装。

「お久しぶり...楽しくお茶を飲みたい気分なんだけど...もう『無理』みたい...。」

「あぁ。よくがんばったね『アリス』。思う存分遊んでくれ──」

言い終わるや否や、アリスと呼ばれた少女はグレーテルの体を二つに裂いた。

グレーテルはあっけなく絶命した。

飛び散る血。メイジーは発狂した。

「嫌ァァァァァァア!!!」

いつもならこの時点でメイジーは赤ずきんと入れ替わっていた。

だが、今日はそうはならなかった。

大声を出したせいで、メイジーはアリスに見つかった。

アリスが手にする、自身の身の丈ほどある鍵。

それがメイジーの方に向けられる。

そして次の瞬間。

メイジーは闇に引きずりこまれた。


目を開けるとメイジーはゆっくりと落下していた。

周りを囲むのは延々と続く食器棚。

上も下もずっと同じ景色が続いている。

「ここは...?」

メイジーの言葉がこだまとなって自身に返っていく。

考えても仕方ない...そうメイジーは気持ちを切り替え、状況を整理する。

周りを囲う、長い食器棚。皿やティーカップはもちろん、空き瓶なんかもしまってある。

ゆっくりと下降中。体もそれなりに動かせる。

まるで、見えない下がる床の上に立っているような感覚だ。

──何も起きない。

不思議なほどに何も起きない。

アリスに何かをされたことに違いはない。

あのとき見えた狂気にかられた眼を、メイジーははっきり覚えていた。

忘れようとも忘れられない、あれは『赤ずきん』と同じ眼だった。

ここでメイジーは頬についた血に気づいた。

グレーテルの血だ。

思えば、ヘンゼルの話は詳しくしたがグレーテルの話はあまり聞いていない。

グレーテルもまた、カースであれば普通の死に方はできない。

痛みは味わえど生きているはずだ。

「またお話ししたいな...。」

そう、死んで欲しくないと思う反面、死んでしまえるなら...そう考えている自分がいることにメイジーは気づいていた。

他人の死に羨ましいと感じていたのだ。

(最低ね...これもあなたのせいなの?赤ずきん。)

心の声に返事はなく、ただただ時間が過ぎ体がゆっくりと落ちる。

そして、やっと地面が見えてきた。

とは言ってもまだまだ先だ。

そんなとき。


「やあやあ、お嬢さん──願いに駆られた旅人よ!僕が直々に助言を授けよう!」


「えぇぇぇっ!?」

もちろん、こんな長い沈黙を破っていきなり響いた声にメイジーは驚き仰天。

メイジーは体を器用に捻って声の聞こえた方に向ける。

「猫...さん?」

そこには、メイジーの背丈よりも大きな猫の『顔』があった。

「いいね、いいねぇ!若者は反応が面白いからやめられないや!」

続けて、その猫は言った。

「いかにも、吾輩は猫である。猫は猫でもチシャな猫であーる!」

顎を付きだし、エッヘンとした態度だ。

「おいおい、ツッコめよ!何でもいいから!猫なのに顔しかなーい、とか猫なのに喋ってるー、とかぁ!」

その逆ギレにメイジーは冷徹に答えた。

「いえ、もうなんか...慣れました...。」

「にゃ、にゃんとぉ!慣れたとな!?くそぉ!手足があればこんな小娘、吾の肉球で優しく押し潰してくれるのにぃ!」

わぁ、なんかすごいことになったなぁ。メイジーはそう思った。

だが、口を開いたら負けだと思ったのでそのままにしておいた。

(はやく降りたい...。)

チシャ猫から視線をそらし、真下を見る。

...まだ時間はかかりそうだ。

「さてはお主、吾輩を面倒に思っているな?だが、案ずるな。ここからが本題であーる。」

「え?」

メイジーは驚いた。

このチシャ猫はただ私をからかいに来ただけだと思っていたからだ。

メイジーは視線をチシャ猫に戻す。

「いいか、一回しか言わぬぞ。」

「はい。」

少し真剣な表情になったチシャ猫は、どこか悲しそうでもあった。

メイジーがその意味を知るのはまだ少し先の話。

「この下にアリスはいる。彼女に勝てば君は、『あの方』に会える。彼に会えば、君は願いが叶う。」

そこまで言い終えたところで、チシャ猫に霧のようなものがかかる。

消えてしまう、とメイジーは直感した。

「猫さん!『あの方』って誰なの?」

「『あの方』の本当の名を我らは知らぬ。だが我らはこう呼ぶ──『深淵アヴィス』──。」

メイジーの直感どおり、チシャ猫は消えた。

「アヴィス...。」

まだ知らぬその人に思いをはせ、メイジーはまた真下を見る。

あと少し。

アリスのお血ゃ会まで、あと少し──。

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