始まりの物語
このはです。童話の続きを想像したらこんな物語になりました。主人公は赤ずきんです。童話好きの方だとご存知だと思いますが、『赤ずきん』はいろんな意味で特別な童話です。国によって解釈が違ったり、不思議な作品です。私の書いたものも(いい意味で)不思議な作品になってほしいな思います。
私はメイジー。
あの有名な赤ずきんよ。
お母さまと二人で幸せに暮らしているわ。
そんなある日、おばあさまからお手紙が届いたの。
『メイジー、もうすぐあなたの誕生日よね?おばあさんからプレゼントがあるから、近々私の家に来てちょうだい。もう寄り道は駄目よ?』
私はとっても嬉しかったわ。
プレゼントを貰えるのもそうだけど、何よりおばあさまと会えるんだもの!
早速私はおばあさまのお家に向かう準備をしたわ。
...お母さまに内緒でね。
だって絶対反対されますもの。
だから私、夜明け前に家を出ることにしたの。
作戦は成功!
ワインとビスケットを持って森へ向かったわ。
道から少し外れたところにお花畑があるの。
森には誰も立ち寄らないからとっても綺麗なお花がたくさん咲いているの!
私はそこから赤、白、黄の花をそれぞれ一輪ずつ摘んだわ。
おばあさまは喜ぶかしら?
...カサカサ...カサ......
何か音がするわ。草をかき分けるような...。
つけられている?
私はおばあさまの家に急ぐことにしたわ。
少し寄り道をしてね。
狭い道を通ってやっとおばあさまの家についたわ。
いつもの二倍の時間かかってしまったけれど。
でも、ちょうど日の出の時間。
結果オーライね。
トントントン
私はノックしたわ。
「私よ。おばあさま。あなたの孫のメイジーよ。」
「...鍵は開いてるよ。...お入り、私の...かわいいメイジー...。」
あら、ひどい声...。
あの時とは違う、がらがら声。
でもやっぱりあの時を思い出す...。
キィィィィ...
ゆっくり扉を開けて、部屋の中を覗き込んだわ。
そこには、ベッドから上体を起こしたおばあさまがいらしたわ。
それでも安心できない私は、回りをキョロキョロ。
やっとのことで家の中に入ったの。
「どうしたんだい?メイジー。そんなにこの家が汚いかい?」
おばあさまは冗談混じりに聞いたわ。
「朝から誰かにあとをつけられている気がしたの。それで先回りしてたらどうしよう...って思ったの。」
「あの時のこと、まだ後悔してるのかい?」
「いえ!おばあさまが生きていてくださって本当に良かったわ!狼さんは残念だったけど...。もう昔の話よ!」
私は笑顔を作ったわ。本当は死ぬほど辛いのに。
嗚呼、狼さん。あなたにもう一度会えたなら──。
「そうかい...。それで、今日は何でここに来たんだい?」
「嫌だわ、おばあさま。おばあさまがお手紙をくださったんじゃない。」
「いいえ。私は手紙など書ける状態じゃなかったよ。風邪が落ち着いたのは今日のことだもの。」
「え──。」
じゃあ、誰が?
そう思考を巡らしたとき、犯人は家に入ってきたわ。
ギィィィィィ
「ただいま~。今日は鶏肉だぜ。おばあちゃん♪」
手に大きな鶏を持った男は、とっても笑顔。
でも、この笑顔にいい思いではない。
やっと会えた...。
私の運命を狂わした人。
──森の狩人さん。
「お、赤ずきんじゃねぇか!久しぶりだな!元気にしてたか?」
「何が元気にしてたか、よ。」
「ん?なんか悪いこと言ったか?」
「知ってるわ。あなたなんでしょ、私をつけてたの。」
「何の話だかさっぱりなんだが...。」
「知ってるわ。あの時だって!」
「あ、あの時って...?」
「私が喰われたあの時!!!」
「!」
「あなたは私のことをずっと見てた!私は町で評判だったもの!あなたは私の噂を耳にして、一目みたいと思った!でもちょうどその時、あなたは見たの!」
「何を言って...。」
「メイジー、少し落ちつ──」
「黙れッッ!」
二人を振り切って私は話を続けたわ。
「あなたは私が狼さんとお話してるのを見たの!それでそのあと怪しく思ったあなたは、私をつけた!私が家の中に入るのを確認して、あなたは窓から部屋の中を確認してた。そして気づいたはずよ!『あれは狼だ』って!なのにあなたは私が喰われるまで待った。すべては狼殺しの英雄と謳われるために!」
「それをどこで...!?」
「おばあさまと食事をし終えたあと、フードを被った少年に教えてもらったわ。さあ、謝りなさい!私と天の狼さんに!」
「...なぜだ?」
「!?」
「お前の言うように、俺は確かに英雄と呼ばれたかった。でもそれがどうした?お前とばあちゃんは現に生きてる!狼に謝れ?そうだな、狼に言うことがあるなら、『ありがとう』だな」
この言葉に私を抑えていた鎖は反応したわ。
──プツンッ
そう音をたてて粉々に崩れ落ちたわ。
これでまた一人死んだ。
どうしてこう私の周りには不幸が飛び交うのでしょうか。
返り血を浴びたずきんはさらに赤く赤く。
叫び声。
嗚呼、おばあさま。そんなに驚かないで。
これは呪い。あの時出会った少年が私にかけたもの。
いや、呪いではなく『願い』なのかもしれないわ。
人と狼の禁断の恋。
いつかあの世に行く私に、狼さんとの恋を許されるように。
私は狼になった。
ただ、それは私が望んだときだけ。
そう思ってたけど、少し違うみたい。
また一人死んだ。
嗚呼、おばあさま。先にあの世で待っていて。すぐに逝くから。
今はまだ無理。
体の制御が効かないの。
そう、これは願いとその代償。
呪われた運命をたどる、後の物語。