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Skies Heart  作者: みやびなや
グレイ編
21/27

獣使いとの戦い・後



 咆哮と共に巨獣が迫ってくる。

 その眼に宿る光は縄張りを犯した俺達への恨みか、あるいは主を害する者を許さないという忠誠によるものか。

 いずれにせよ、このままでは5人揃ってミンチになりかねない。


Mad(紅雫) drunker(呑みの食肉牙)


 ホープの魔術で、大地が棘状に隆起する。

 速度からして制止は不可能だ。

 強靭な足を削る土の槍衾(やりぶすま)が、獲物を求めてがばぁ、と口を開いている。

 だが、


「ガァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「何!?」

「跳んだぁ!?」


 合成獣(キメラ)は制止どころか、その勢いのまま跳躍し、槍衾を飛び越えた。

 あの巨体で、まるで猫のようなしなやかさで。


 再開される突進。

 暴走するダンプの様だ。

 土煙を巻き上げながら、容赦なく俺達を轢殺せんと駆ける。

 あの走力と巨体なら、エフレアの外壁すら容易くぶち抜くだろう。

 見る見るうちに、合成獣は距離を詰めてくる。


「――――――フッ!」


 それを迎え撃つように、背後から敵に向かって飛び出す影があった。

 風を受けて逆立つ銀の短髪。

 バシアスは、その手に灯した炎を噴射して空中へと飛び上がり、


 凄まじい勢いで飛び蹴りを放った。

 ちょうど平仮名の「く」を右に倒したような軌道で放たれた蹴りは、合成獣キメラの首筋を打ち抜き、


「――――――セッ!!」


 炎を纏った回転蹴りへの連携によって、その頭部を地面に叩きつけた。


「す、げぇ――――」


 思わず声が漏れる。

 真正面からとはいえ、あの巨体を打ちのめす打撃もそうだが。

 あれほどの圧を伴った突進に怯むことなく立ち向かい、冷静かつ敵を打ち抜いた先進力と体技もまた、恐ろしいものがある。

 あれこそが、以前出力で勝るフェテレーシアを追いつめたモノ。

 すなわち、培った戦闘経験に他ならない。


「ガァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「何っ!?」


 地面に叩きつけられた筈の合成獣が、爆裂の如き咆哮を上げる。

 巨体ゆえ、あの打撃を受けて、ダメージを負っていないのか。

 振るわれる爪を躱すバシアス。

 だが、それを躱すのに夢中で、彼は槍の如き一撃を見落とした。


「グっ!?」

「バシアス!?」


 蛇頭となった尾が、空を滑るように疾走し、バシアスの腹を叩く。

 直撃の後、鞭のようにしなるそれはヒュンとバシアスを地面に叩きつける。

 だが、バシアスも苦痛をどうにか押し殺し、地に伏せることなく再度空へと舞い上がった。


「やあっ――――――!」


 続くフェテレーシア、放つは風槍。

 大地を抉る風の暴威が螺旋(うず)を為し、束ね上げられた槍の投擲。

 だが、獣の持つ危機感知と身体能力の前では、その一撃は遥かに遅い――!

 加えてあの獣は、その両者をより強化されて獲得しているのだ。

 当然のごとく、風槍は躱され、獣の背後の木々をなぎ倒していく。


 自らを狙う攻撃をノロマと嘲笑うように、その全てを置き去りにして合成獣は駆ける。

 その距離はついに10を詰めた。

 これ以上の迎撃は叶わない。

 回避が僅かでも遅れれば、それはすなわち死を意味する……!


「くっ――――!」


 必死で横に跳び、突進の範囲から逃れる。

 獲物の離脱によって、ブレーキをかけながら合成獣が地を滑っていく。

 そして、直後になされた跳躍とともに、断頭の(ツメ)が振るわれた。


「くっ―――――――!?」


 標的はガルハールだ。

 空を割く鋭さで滑る巨大な爪。

 直撃すれば容易く肉を骨ごと粉砕する一撃を前に。


「ざけんじゃ、ねぇっ!」


 ガルハールは、むしろ一歩を踏み出し迎撃に入る。

 震脚と共に発生する津波。

 仲間を傷つけられた怒りを叩きつけるような、怒涛のごとき鉄砲水。

 荒れ狂う波濤は横なぎの瀑布(ばくふ)となって、敵の体を押し返し、

 相打つ形で、爪の鉄槌が下された。


「ぐっ――――があっ―――――!!??」


 胸から血を零し、宙を舞うガルハール。

 だん、と背中から落ちる。

 あれはマズイ。

 致命傷にせよそうでないにせよ、あの攻撃を至近距離で喰らってただではすむまい。

 ガルハールは苦悶を漏らし、その身に刻まれた激痛に喘いでいる。

 対して、あの波を喰らった合成獣は、たいしたダメージを負った様子もなく健在だった。


「ヒヒヒ――――――。まずは1人。ほら、だから言ったろ? 早いとこ出て行っとけってな」


 枝にとまった鳥の甲高い声。

 主の言葉を代弁するために後付けされた声帯が、不愉快な声を上げている。


「バシアス! ルイを掴んで空へ!!」


 瞬間、ホープが叫ぶ。

 余裕のない声に弾かれるように、バシアスは俺の元まで飛んでくると


「行くぞ、ルイ!」

「ぐえっ!?」


 タックルみたいな勢いで小脇に抱え、そのまま空中に舞い上がる。

 正直凄く痛かったが、それを機にしている場合ではない。


 仮に。 

 今の攻撃が、俺を狙った物だったらどうなっていたか。

 考えるまでもない。

 反撃すらできず、なすすべもないままに潰されていたか両断されていたか。

 どちらにしても、命なんてなかったはずだ。


「ガアッ!!」

「何!?」


 空に逃げる俺とバシアスを逃さんとばかりに、合成獣が跳ぶ。

 風圧を伴い振るわれる爪撃の連打。

 それをギリギリで躱しながら、バシアスはどうにか背後に逃れようとする。

 だが、俺を背負っていることが予想以上に負担になっているのか、普段の速度が出ていない。


 着地し、再度跳びあがる合成獣。

 迫る爪牙は檻のように逃げ場を封じ、舞う巨体は俺達の上を取って上空への逃げ道を断った。

 獣が落下を開始する。

 逃げられない。

 逃げられない……!

 だが、それは相手だって同じことで――――!


「吼えろ―――――!!」


 バシアスの声に従うように、文字通り空気が唸りを上げる。

 俺達を押しつぶさんと空中に身を晒す合成獣には、このタイミングに限り回避する手段が一切ない……!

 脚から噴き出す炎によって、バシアスが宙に立つ。

 足場などないも同然でありながら、空に根を張る大樹のように踏ん張り。

 自らの敵に向かい、その左手を突きだした。


 爆ぜる灼熱が顔を出す。

 繰り出される熱波は、合成獣の体毛を焼き払い肉に至る。


 周囲一帯を焦土と化すような熱に顔を背ける。

 取った! 

 例え如何に獣と言えど、肉を持つ生物がこんな火炎の中で生きていられる筈が……!


「ラァァァァァァルルルルルルルルルル!!!!」


 否、その炎の海を突破する獣の姿があった。


「なっ――――――!!?」


 右腕(まえあし)が振り抜かれる。

 風を断って迫るそれは、まるで太刀のような鋭さで俺達を諸共に両断しにかかり


「くっ――――! ルイ!」

「え―――――!?」


 ふわりと、宙に投げ出された。

 次いで、赤の飛沫が飛び散る。

 バシアスは、俺を庇うように背後に投げ落としながら、合成獣の(かいな)を受け入れた。


 地面に叩きつけられるバシアス。

 落ち始めたのは俺の方が先なのに、墜とされたのはアイツの方が先だった。

 

 ……ふざけるな。

 何が、足手まといになる気はない、だ。

 バシアスに守ってもらい、庇ってもらい、結果としてバシアスはやられてしまった。

 これを、足手まといと言わずになんというのか……!


「ぐっ―――――そ――――!!」


 怒りが身を焦がす。

 背中からどしゃりと地に落ちて、衝撃で背骨が砕けたような痛みすら、この悔しさの前では些細な事だ。

 くそ。

 クソ。

 クソっ――――!!

 なんで俺はこんなに、自分の身すら守れない程に弱いのか――――!


「ルイ!!」


 フェテレーシアの叫び声が聞こえる。

 きっと、落下した俺を心配したのだろう。

 彼女は優しい。

 こんな足手まといにだって、手を差し伸べてくれるほどに。


「これで二人目。ったく、余計な意地を張るからこうなるんだっての」


 うるさい。

 その口を閉じろ、駄鳥。

 エフレアの民を守ろうと、バシアスはここまでやって来たんだ。

 それを、余計な意地なんて、どんな神経で言いやがるのか――――!


「大体、俺なんて捨て置けばいい事じゃねぇか。別に男1人森で暮らしてるだけだってのに、何だってこんなに喧嘩騒ぎに招待されなきゃならねぇんだっての。受け入れなかったのはテメェらの方なんだから、せめて放っておいてくれりゃぁいいのにな。……っと、二人もいれば十分か」


 敵は、そんな良く分からない事を言っている。

 そう言えば、こいつは何だってこんなところにいるのだろう――?


「そんじゃぁ……投降しな、そこの女。さもなくばこの男を踏み潰す。飛んで逃げられて、援軍を呼ばれるのも手間だしな。まぁ、逃げるなら逃げるで人質はきっちり貰っていくが、どうするよ?」


 疑問によって冷静に戻りかけた頭が、再び沸騰しそうになる。

 横たわるバシアスの元に辿りついた合成獣が、大木みたいな足をその真上にかざしている……!


「な――――!?」

「何を驚くことがある。動けねぇ敵が人質にされるなんて当然だろうが。こっちとしてもハエみてぇに嗅ぎまわられるのは気分が悪い。ほら、とっとと決めねぇと仲間が死ぬかもしれねぇぜ? 別に悩んでもいいが、俺はその間にとっととずらからせてもらうが」


 鳥が愉快気な声を上げている。

 いいのだろうか。

 このままでは、神々との決別(エヌマエリシュ)の魔術師を、みすみす取り逃がす。

 いや、それだけじゃない。

 投降したフェテレーシアを敵がどう扱うか分からない。

 敗北した者が人質にされるのが当然なら、人質を取られた事で投降した者が嬲られるのも、またよくある話ではないか。

 バシアスやガルハールが人質として利用する価値があると認めた時点で、こちらに出来る抵抗はなくなってしまい、結局魔術師は逃げおおせるだろう。


 ならば、バシアスもガルハールも見捨てるべきだろうか。

 見捨てて、俺とホープが抵抗している間にフェテレーシアにあの鳥を捕まえてもらうとか。

 ――――あり得ない。

 敵は俺達を鬱陶しがっているのに、あの鳥は逃げていない。

 敵は獣使い。

 要するに、あの鳥ですら、魔術師の使い魔でしかないのだ。

 きっと、今頃はこの場を合成獣とこの鳥に任せ、一足先に逃げだしているのだろう。

 だったら、この鳥を捕まえたって意味がない。


 なにより、バシアス達がいなくなってしまったら、グレイラディが悲しむ。

 昨夜、幼い身で弱音1つ吐かなかった少女が、初めて零した本音を聞いた。

 エフレアの民を守れない事が怖いと、そう言ったのだ。

 そんな彼女が悲しむのを見たくないと思ったのに、バシアス達を失ってしまったら、それを見なくてはならない。


――――大丈夫だよ、グレイラディ。俺達が、きっとお前を助けるからさ。


 領主の少女の涙を見たくなくて、そんな約束を交わしたのだ。

 だったら、その言葉の責任を果たさないと。

 でも、この状況でどうやって――――?


「ルイ!!」


 ホープの呼びかけで、現実に引き戻される。

 向き直って見たホープの顔には、希望の光が宿っていた。


 ――――備えておいてくれ。


 ホープの唇が、そう動いたように見えた。

 訳が分からず、眉をひそめる。

 だが、もう一度動く師匠の唇は全く同じ動きをし――――。


 ふわりと舞い降りる緑髪の少女。

 フェテレーシアは俺の隣に着地した。

 横目で表情を盗み見ると、彼女は唇を噛みしめている。

 優しく、正義感に満ちた彼女の事だ。

 きっと悔しいのだろう。

 エフレアを脅かす魔術師にまんまと逃げられることも、逆らえばバシアス達がただでは済まないことも。

 けれど、打開策がない以上、現状を維持するために今は従うしかない。


「……へっ、素直じゃねぇか。初めからこれくらいやりやすかったら文句はなかったんだがな。それじゃぁ――――」

「その前に、一ついいかい? 君はわざわざ人質を二人用意した。それは何故かな?」

「……?」


 意味が分からない、というように魔術師は沈黙する。

 というか、ホープは本当に、何でそんなことをこのタイミングで訊くのだろう?

 そんなことを、今問い質すことに、一体何の意味があると言うのか。


「いやいや、ボクも魔術師として、それなりのモノを持っているつもりでね。並の相手には負けない自負がある。いや、あったんだ。けれど、それもさっきまでの話。5人がかりでかかったのに、これだけあっさりとやられてしまえば自信も無くすってものだよ。まぁ、だからこそ、自分を負かした相手の思考くらい知っておきたい。その中でも、特に気になったのが、わざわざ人質を二人用意したことでね。二人もいれば十分、と言っていた事からも、君がそれをはじめから狙っていた事が分かる。うん、そのあたり、冥土の土産に教えてくれないかな」


 ペラペラとホープの舌が回っている。

 本当にどうでもいい話題だと思う。

 こんなことを問いただすことに、一体何の意味などあるのか。


 ――――備えておいてくれ。


 いや、違う……!

 唐突に思い至った。

 別にホープはこの問いの答えが知りたい訳じゃなくて――!


「フェテレーシア。魔法の準備を。いつでも放てるようにしておいてくれ」


 魔術師に気取られない様に、フェテレーシアに小声で告げる。

 彼女は戸惑いながらも小さく頷いてくれた。

 それを確認して、俺も手のひらに事象強化(きょうか)を走らせる。


「……そんなこと。人質は大いに越したことはねぇって話だけだよ。いざって時に殺せない人質なんて人質じゃねぇ。時と次第によっちゃ躊躇わず殺し、要求を呑まなかった相手の心に後悔を叩きつける。人質ってのは交渉の材料だ。呑まなきゃ自分が損をするって分からせるためのな。お前らだって交渉に有利な材料は沢山揃えておきたいだろう? いざって時にズバッと勝負をかけられるようにな」

「なるほど、流石は獣使い(ビーストテイマー)。命の消費に関しては一家言あるね。良いカードは抱え込むものじゃなくて切る為にあるってことか。いや、当然のことだけどそれを躊躇いなく行うのは案外難しいと思う。ほら、何かと保険をかけたくなるのが人間ってものだしさ」


 内容のない会話を聞き流しながら、術式を弄っていく。

 威力だけじゃない。

 今必要なのは速さだ。

 あの俊敏な獣に逃げる隙を与えないような、一瞬で敵を穿つ速度がいる。

 フェテレーシアの呼吸を感じとる。

 バシアスとグレイラディの炎を打ち破った時の感覚を思い出せ。

 あの風を束ね、空を切り裂く槍へと制御するために、全神経を集中しろ――――。


「なるほど、君とボク達を(わか)っのはその差ってことか。切り札(エース)の合成獣をきっちりボク達にぶつけてくる事と言い、本当に見極めが上手い」

「……こいつが俺の切り札だと、よく分かったな」

「そりゃぁ分かるよ。君、割とうっかり屋さん?」

「どういう意味だ――――?」

「ふふ、どういう意味だろうね? ルイ、もう行けるだろう?」


 不穏な気配を感じ取ったような鳥の声。

 だが、既に遅い。

 既に、こっちの連携(コンビネーション)の準備は整った……!


「勿論だ!」

「了解! Barrel(銃身) open(展開)Turn(撃ち) away(払え)!!」


 鋭い詠唱と共に、ホープの手元で一瞬で術式が組みあがる。

 文字通り、乱雑に撃ち払われた風の魔弾のガトリングは、あられもない方向――ちょうど合成獣が出て来た茂みの方を撃ち抜き、


「ぐおっ!? あ、あっぶねぇ!!」


 甲高い鳥の声で、その飼い主の悲鳴が伝わった。


「て、テメェ! 急に何を話すかと思えば――――今のは時間稼ぎか!!」

「その通り! 逃げるなんて言いながらこんな切り札なんて持ち出してる時点で、キミにその気がない事は分かったからね! すぐ傍で見てると思ったよ!」

「ぐっ!? だがなぜ位置までばれてやがった!?」

「この合成獣がキミの切り札だと考えた時点で、そのパスを辿ってただけだ! ガルハールとバシアスが倒れていく中、ボクは黙って見てたわけじゃないんだよ! 歯噛みをする位ヒヤヒヤしながら、息を潜めて君の居場所を探ってたのさ!」


 獣使いはその名の通り、獣を使役する魔術師だ。

自分の配下とする獣に術式を埋め込むことで体組織を操作し、戦闘力を向上させて使役する。

 基本的に、彼らにとって獣たちは使い捨ての――言うなれば拳銃の弾に過ぎない。


 しかし、その中でも例外はある。

 それが切り札(エース)と呼ばれる存在、彼らが手塩にかけて育てた、その身に魔を宿す獣である。

 

切り札(エース)っていうのはもう一つの術者と言ってもいい。替えの効かない、自分の命を守る最後の砦。それを、殿(しんがり)として配置するのは道理に合わない。つまり、キミはここから離れるつもりはなかったんだろう? ただ逃げるだけなら、狼たちをけしかけてボク達を妨害しているだけでいいからね!」

「ぐっ……!? て、テメェ……!!」

「そこまで分かれば、あとはキミと切り札の繋がりを探ってやるだけでいい。合成獣から伸びているパスを辿ってやれば、その先にキミがいる!」


 最大の戦力を投入するならば、それに足る理由がいる。

 昔から“切り札は最後まで取っておく”というが、それにしたって適切なタイミングで適切な運用をしてやらなければ如何に優れたカードも性能を発揮できないのが道理だ。

 つまり、替えの効かない最大戦力を、敵はここに投入しなければならない理由があり、


「は、ははははは、ははははははははははははははははははははははは!!!!! やれ、轢き潰せ、合成獣ァ!!」


 狂ったように笑いながら、獣使いは自らの切り札に命じる。

 いつでもその鉄槌を落とせるように待機していた合成獣の足が、先にホープを踏みつぶさんと標的を変える。

 命を終わらせる爪は、ギロチンの冷たさと何が変わろう。

 死を告げるような残忍さで、その鋭利な爪は振り下ろされ


「今だ!!」

「いっけぇ――――!!」


 引き絞った弓から手を放すように、暴風の槍を解き放った。

 細く、鋭く研ぎ澄まされた(おおゆみ)の一撃。

 威力だけではなく、より速度が出るように強化を施した、稲妻の如き一撃。

 ――――真実を語るならば、全性能を回避に傾ければ、合成獣にも致命傷を避けるだけの余地はまだあった。

 だが、主の命令と獣の本能が鬩ぎ合う一瞬の隙が、その決定的な時間を奪い――。


 強靭な体毛と筋肉に守られた心臓に、風の槍が突き立つ。

 同時に体内から炸裂した暴風の炸裂によって、合成獣の上体は、この世から跡形もなく消失した。


次回は10/23日の投稿ですが、諸事情により少々早くなるかもしれません

また、3話(プロローグ3/3)までの改稿を済ませています。

宜しければそちらにも目を通していただけると嬉しいです

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