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Skies Heart  作者: みやびなや
グレイ編
18/27

治癒/獣使い

予定より早いとは思ったが、投稿を抑えられなかった。

申し訳ございません。

今回は魔術に寄ったお話。


◇◇


神々との決別(エヌマエリシュ)の奴らか!?」

「断定はできない! だが、可能性は高いだろう」

「被害状況は?」

「3班の内、ロフの森担当の15名が襲撃された! 軽傷者11名、重傷者が3名だ! 特にバッツが首の付近を負傷して出血が酷い」


 緊迫した表情で情報を交わすリューディスと呼ばれた男とガルハール。

 その間には、危機感だけでなく怒りが込められている様に聞こえる。


「状況は? 敵の数は」

「報告に上がっている限り、1人だけだ」

「1人だと!? たった1人に15人もやられたってのか!? 伏兵は!?」

「伏兵は確認されてない。だが見たところ、そいつは森の獣を操っているようだった。ロフの森で人間を発見し、追跡した先で獣に取り囲まれたんだ。数で押されて負傷者が増えたところで、その隙を――――」

「そのチクショウに突かれたってわけか。クソッ! すぐに3班の受け入れの態勢を作れ! 同時に、非番で寝こけている奴らを叩き起こして、1,2班に街門の警備を厚くするよう通達させろ! この隙に敵の伏兵がやってこないとも限らねぇ!」


 ガルハールはそう吐き捨てながらもてきぱきと指示を出す。

 その言葉に弾かれるように、側にいた魔族が詰め所の奥の方に消えていった。

 リューディスもその後に続く。

 

「ガルハール。緊急事態だ、俺達も介入させてもらうぞ」

「そうじゃな。予定外の事態じゃが、想定内の出来事でもある。これが魔族狩りであれば捨て置ける問題ではないからな」


 どたどたと慌ただしくなってきた詰め所の中で、バシアス達が進み出る。

 これが本当に神々との決別(エヌマエリシュ)による襲撃ならば、彼らも黙ってはいられないということだろう。

 勿論、協力者である俺達も。


「グレイラディ様……バシアス」

「こと神々との決別(エヌマエリシュ)の対策はエフレア全体で当たるべき案件だ。そうだろ?」

「それはそうだが、まさかコイツらもか?」


 そう言って、ガルハールは俺達に視線を投げた。

 そこには、俺達が介入することに対する不安と困惑が感じられる。

 神々との決別は人間で構成された、魔族狩りを行う組織だ。

 だというのに人間を招き入れるのは正気ではないというような、疑いを込めた視線だった。


「信じていいんだろうな?」

「その価値はある」

「不安な答えだな。人間の狡猾さを忘れたわけじゃねぇだろうな? いざって時に背後から打ち抜かれるなんぞ俺は嫌だぜ」

「2人は確かに人間だ。だが、ルイ達が奴らに通じているのなら、エフレアはとっくに落ちている。こいつらはグレイラディ様と俺を一度追い詰めているからな」

「……知らない間に何か恐ろしい事があったみたいだが、それはまた後日聞くことにする。ようは、力はあるが敵対の意志はないと判断してもいいってことだな?」


 こくりと頷くバシアス。

 内心、すこし驚いた。

 バシアスが俺たちを、そんな風に信頼(ひょうか)していたなんて。


「はぁ……分かったよ。人間嫌いのお前が此処まで言うんだ。信じられるわけじゃぁねぇが、少しはそうなるよう努力はしよう」


 そのバシアスの言葉に感じるものがあったのか、ガルハールは根負けとばかりに肩をすくめた。

 対して、バシアスは不機嫌そうに鼻を鳴らしていている。


「よし、それじゃぁ怪我人の受け入れを手伝ってくれ。正直言って、手はいくらでも借りたい状況だからな」


 振り返り、詰め所の奥へと消えていくガルハール。

 俺達はそれに着いていこうとし、目の前で不意にバシアスが振り返った。


「……言っておくが、それでも俺はお前が苦手だからな、ルイ」



◇◇



 ほどなくして、その怪我人が運ばれてきた。

 イフレース自警団3班の面々は、交戦の傷を体に刻んで帰ってきた。

 大半は軽度の噛み傷や打撲程度だが、中には骨が見えるほどに肉を食いちぎられた者もいる。


「手当てを急げ! 軽傷の者は手当が終わり次第警備のフォローに当たれ!」

「敵について、何か気が付いたものは報告しろ! 治療が終わってからでいいから!」

「化膿しない様に、消毒は念入りにやっておけよ! 狼に噛まれた奴は特にな!」

「お前怪我してなかったじゃねぇか! ボーっとしてないで、治療のサポートに回りやがれ!」

「は、はひぃ!」


 ごったがえす詰め所内。

 今手当てを受けているのが、謎の人間に襲撃を受けた魔族達ということらしい。

 彼らは戻って来るなり俺とホープを見てギョッとし、さらにバシアスとグレイラディが側にいるのを見て、困惑した表情を浮かべながら治療に取り掛かっていた。


「……やっぱり、ボク達が此処にいるのはおかしいのかな」

「魔族にとって、人間は警戒の対象じゃからな。エフレアにも数は少ないが人間は住んでいる。このエフレアで、永い時を魔族と共に過ごしてきた者達じゃ。じゃが、その者達ですら、信じていいのか分からない存在になってしまっている。我とバシアスと一緒にいなければ、貴様らもすぐさま詰問されておったじゃろうな」


 ホープとグレイラディの会話を聞きながら、即席の簡易病棟となった詰め所内を眺めている。

 手伝いたいが、俺が何かしようとしたところで魔族である彼らは嫌がるだろう。

 なので、居心地の悪さを堪えながら、こうして5人で突っ立って、治療が終わって報告を上げてくる自警団の者達を待っている。


「なるほど、君達がいながらボク()が放置されているから、驚きはするけど危険はないと判断していると。判断基準それでいいのかな……」

「バシアスの人間嫌いのなせる業じゃな。こ奴が放置する人間ということは何かしらの事情があると思うのは当然じゃろう。別に、バシアスも初めから人間が嫌いだった訳ではないのじゃがな」

「グレイラディ様、それ以上は」


 バシアスの声は冷ややかだった。

 その先は彼にとって触れられたくはない部分なのだろう。

 俺達が協力者なのだとしても、会って高々数日の人間に知られたくない程度には。


「分かったよ。配下の忠を無碍(むげ)にはすまい」


 グレイラディはふいとバシアスから視線を切った。

 と同時に、にわかに詰め所の外が騒がしくなる。

 その原因は、すぐさまわかる事になった。


「着いたぞ、バッツ! しっかりしろ!」

「すまない! バッツの手当の準備を急いでくれ!」

「大丈夫だよね! パパは……パパは大丈夫だよね!?」


 2人がかりで搬入される担架と、その足元で涙を浮かべる、金髪をツインテールにした幼い少女。

 おそらく、重症を負ったらしいバッツと言う人物を運んできたのだろう。

一団は聖人に分かたれた海のように、左右に割れた魔族達の間を通って、詰め所の奥へと進んでいく。


「グレイラディ。ボク達が行っても大丈夫かい? 傷の治療ならボクにも協力できるけど」

「よかろう。我が話をつける」

「ありがとう。それじゃぁルイ、行くよ」


 ホープとグレイラディと共に、バッツを運んで行った魔族達に続く。

 詰め所と言っても、そこは小旅館のようなせせこましいものではない。

 200人以上を収容できる4階立ての居住棟に、いざという時には避難所として活用されるらしいドーム。

 外には訓練に用いられるらしい芝と白砂の区画もあり、イメージとしては高校のようだ。

 

 子供の泣き声を頼りに、医務室に辿りつく。

 入室した俺達を見て、魔族達がギョッとした。

何をしに来たのかと、疑いの視線が突き刺さる。

グレイラディが一緒にいたから魔族達が混乱することはなかったが、それでも不安そうな顔は隠しようがない。


医務室には比較的深い怪我を負った者と、その治療にあたる魔族達がいた。

怪我人4人に対し治療役は8人。

それに、最も酷い怪我を負った魔族の側で泣き続けている少女が1人。

少女を除く全員が、扉の前に立つ俺達を見ていた。


「入るぞ」

「グレイラディ様。この者達は……? 見たところ人間のようですが」


 手当をしていた魔族の内の1人が、手を止めて俺達の元にやってくる。

 魔族の詰め所に人間がいる事が疑問なのだろう。


「うむ、こ奴らは我の協力者じゃ。名をルイとホフマンという。バッツの治療に役立つと思い連れてきたのじゃ」

「なっ!?」

「グレイラディ、治療に取り掛かるけど、いいよね?」

「うむ。すぐに始めてくれ」

「ちょ!? お待ちくださいグレイラディ様! こんな素性も分からぬものに、我らの仲間を任せるなど!」

「事情は後で話すのじゃ。バッツの出血量からして、酷く衰弱しておるようじゃ。娘の前でそのような姿をいつまでも見せるわけにはいくまい。なに、いざという時の責任は我がとる」


 グレイラディのその言葉で何も言えなくなった魔族を尻目に、ホープがバッツと思しき魔族の元へと歩み寄り、しゃがみ込む。


「……お兄ちゃんは……?」


 涙で真っ赤になった目で、隣で立膝をつくホープに問いかける少女。

 年齢は二ケタに届くか届かないかといった幼い少女は、不安そうに、見知らぬ人間(ホープ)を見上げている。


「……君のお父さんを元気にしに来たんだよ。いいから、ここはボクに任せておくと良い」


 向けられる不信の目の中で、ホープはにっこりと少女に応えると、重症の魔族に向き直った。

 横になった男は、酷く弱り果てていた。

 脂汗が日焼けした肌を伝う。

 オールバックの金髪はぼさぼさに乱れており、堀が深い蒼の目は焦点が合っていない。

 平時であれば凛々しい美丈夫に違いないであろう彼は、多量の出血で酷いダメージを負っているようだった。


「貴方がバッツさんですね。事情は今話した通りです。魔族の貴方がボクに穏やかな心を抱いていないとしても、この場だけはそれを忘れ、身を任せて下さい」

「……構わねぇ。やってくれや、伊達男」

「ぱぱ……っ!」

「はは、大丈夫だジュリアー……。パパは死なないさ。」


 苦痛で顔を歪めながらも、気丈に笑みを浮かべながら、娘の頬を撫でるバッツ。

 渋みのある低い声に、人間であるホープへの敵意は見られない。

 ……心強い。

 死の淵にあった者が、強い意志で生還したというケースは多い。

 ホープの治療を拒む様子もないし、無事に行けばきっと彼は助かるだろう。


「それでは……Go(世界より) away(一時) your(目を) pain(逸らし).I(汝の) relieve(足は) your(地を) pain(離れる)


 瞬間、バッツが電源を切ったようにがくんと意識を失った。

 操り人形が糸を切られたような唐突さで、ジュリアーの頬に伸びていた手が落ちる。 


「パパぁ!?」

「貴様! バッツに何をした!」


 意識を無くした父をみて絶叫するジュリア―と、その声に弾かれるようにホープを睨みつけ、取り囲む魔族達。


「答えろ! 何をした!」

「静かにしろ! 治療はまだ途中なんだよ!」


 今にもホープに襲い掛かりそうな魔族達を制止する。

 その間にも、ホープの詠唱は続いていく。


It(その) will(苦痛) be() well(羽に).I(我が) have() a(には) piece(汝の) of(命運) your(その) fate(一欠片)」 

「み、見ろ……! 傷が」

「パパの傷が、ふさがってる……!」


 驚愕の声が上がる。

バッツの肩に大きく刻まれた傷は、少しずつ修復されていく。

 粘土を継ぎ足した後のような、歪なミミズ腫れが出来ているが、それでも抉られた肩はしっかりと治っていた。


「あ、アンタ本当に何をした……?」

「魔術でバッツさんの傷を治癒させました。そういえば、魔族はこういうのは使えないので?」

「あ、あぁ。人間の中にはこういうことが出来る者がいると聞いたことはあるが、……実際に見たのは初めてだ……」


 先ほど叫んだ魔族が、今度は震える声で答える。

 ホープはそれになるほど、と頷き。


「では、皆さんの治療に協力させてもらっても大丈夫ですか? 敵対の意志はそちらが判断することだからともかくとして、怪我を治す力に関しては今見せたとおりですが」

「う、うむ……」


 魔族は主に助けを求めるようにグレイラディの方を見る。

 目の前で起きたことが魔族にとってはどれほど信じられない事なのか、俺にはわからないが、どうやら理解が追いついていないらしい。

 

「味わってみるがいい。我も一度経験したが、存外悪くないぞ?」

「で、ですがバッツのように意識を奪われてしまったら……」

「あれは重傷者だったからです。峠は超えましたが、それでも完治はしていない。体力の回復のために眠ってもらっただけですよ」

「……あ、あのよ。俺にもその治癒ってのを頼んでいいか?」

「ルジオース!!」

「い、いいじゃねぇか! ヴァルグ! 俺だって腕が痛くて仕方ねぇんだよ!」


 ルジオースと呼ばれた、紺の髪の男が叫ぶ。

 

「えぇ、いいですよ。さぁ、腕を見せて」


 それに快く答えながら、ホープは幹部の確認をし、術をかけ始める。

 ルジオースを止めた魔族も、治癒が始まった途端興味深そうにその光景を眺めている。

 結局、3人目の魔族も治癒を申し出たことで、重傷者はあっという間に回復完了してしまっていた。


「す、すげぇ……本当に治っちまった」

「お兄ちゃんすごーい! ねぇ、わたしが怪我した時にもお兄ちゃんが直してくれる?」

「うん、いいとも。でも怪我しないのが一番だぞ、痛いし」


 ジュリア―の無邪気な笑顔に、これまた笑顔で答えるホープ。

 その顔を見たヴァルグは


「……ホフマンといったか。協力への感謝と、先ほどの言葉を誤らせてくれ。それと、勝手ではあるが、3班の他の奴らにも治癒をかけてやってほしい」


 真摯な顔で、そう言った。


「うん、勿論だ」


 緩んだ笑顔を引き締めて、ホープはヴァルグに向き直る。

 既に、ホープは魔族からの信頼を勝ち取り始めていた。



◇◇



「さて、襲撃があったのはロフの森じゃったな」

「は、その通りでございます」


 ホープの参加により、治療の完了は大幅に早まった。

 その後、会議室に通された俺達は、森の中で襲撃を行ったという人間について対策を立てている。


「その者を発見し、追跡を行った所で獣たちに襲撃を受けたということじゃな?」

「はい。おそらくは、神々との決別(エヌマエリシュ)の手の者である可能性が高い、と……」

「推測で物を語るのは良くないが、その可能性も十分にあるな……」


 グレイラディは顔をしかめている。

 魔族狩りの組織、神々との決別(エヌマエリシュ)による攻撃。

 最近エフレアでもそいつらの活動が活発化しているという情報からして、切り捨てられない可能性の1つではある。


「だが、それが積極的な攻撃だったのか、といえば疑問が残る」

「どういうことだ? ガルハール」


 口を開いたガルハールに、バシアスが問いかける。


「俺達への攻撃の理由が分からないってことだよ。これが陽動で、警備が手薄になった好きにエフレアに伏兵が攻撃を仕掛けるなんてことも考えられたわけだ。だが、そう言う動きは見られなかった」

「被害が予定より少なかったために断念した、という可能性は?」

「ないではない。だが、だとすれば3班を狙う理由が薄い。森林での警備が主な任務である3班は、その特性上班をさらに3つに分けなければならないからな」


 ガルハールの説明に、バシアスがそうか、と頷いている。

 エフレール自警団の役割は1班ごとに約70人、全3班の約210名で構成されている。

 7日につき2日の休みが各員に与えられているため、1日に動く団員の数はおよそ50人になるらしい。

 

 中でも3班はエフレアの貴重な資源である森林の管理を担当する班である。

 伐採量の管理、害獣の駆除、森林を寝床にする犯罪者の確保及び捕縛。森林に潜る魔族の護衛などなど。

 こうした任務により、エフレアを財政面、治安面から支えてきた班である。


 で、ガルハールの言う通り、3班はそこから更に班を3つに分けることになる。

 なぜかと言えば、エフレアの付近には3つの森があるためだ。

 第1に、南西のラシア森林。

 3つの森林の中で最大規模を誇る、古今エフレアを支え続けてきた木々の海。

 この森の恵みによってエフレアは今日まで育ってきたと言っていい。

 第2に、西のルア森林。

 3つの森林の中で規模は最小の、かつてフェテレーシアの隠れ家があった森だ。

 そして第3に、(くだん)のロフの森。

 木の質、量、ともにラシアに一歩譲るが、良質な薬草が採れる事から、定期的に採集が行われ、その際には3班も同行するという。

 ともあれ、


「確かに、それを襲った所で被害が出るのは15人程度……。加えて、基本的には街の外で活動する者達なら、陽動を狙ってのものと考えるのは無理があるか」


 これがエフレアに害をなすための作戦ではない、とガルハールは結論付けた。

 確かに、他にも可能性がないわけでもないが、こちらに情報が不足している以上、そこから先は憶測にしかならない。


「じゃぁ、これは相手にとっても想定外の出来事だったってこと?」

「断言は出来ないけど、話を聞く限りはそう見る方が自然だろうね」


 フェテレーシアの考えを、ホープが首肯する。

 確かに、ここに敵の作戦のような、意図的なものを見出すのは難しい。


「だとすれば、相手の狙いについてこれ以上考察する意味は薄いな。ところで……ルイ、ホープ。敵の魔術師という奴について、お前たちの意見を聞きたい」


 バシアスの声に向き直る。

 俺達は魔術師として、敵の戦術への対策を立てるためにここにいるのだ。


「うん、報告を聞いた限りだと、獣使い(ビーストテイマー)系の魔術師だと思う。逃げた先がたまたま獣たちの縄張りで、偶然魔族だけが襲われたって言うのは考えにくいからね」

「獣使い……」


 そのままだな、と呟くガルハールと、厳しい視線のまま続きを促してくるバシアス。

 その催促に、ホープは言葉を続ける。


「獣使いっていうのは、その名の通り、魔術で強化した獣を中心に使う魔術師だ。動物に術式を刻んで成長を操作し、育った獣で主戦力とする」

「強いのか?」

「さぁてね。獣使いって肩書が強さを証明する訳じゃない。生物の体内って言う、狭い世界を弄る以上、魔術の操作は素晴らしく上手いだろう。けど、それが戦力に繋がるわけじゃないんだ。獣使いにだって、滅茶苦茶戦える奴もいれば、銭湯に不向きな奴もいる。ただ……」


 そこまで言って、ホープは一度言葉を切った後、


「個人的な憶測で言っていいのなら、魔術師として凄く強いと思う」

「ほう? して、その心は?」


 グレイラディが問う。

 その顔から普段の猫みたいな笑みが消えているのは、民を脅かす存在と、それを取り除かねばならないという使命感からか。


「第1に、自警団の皆を退けた事。15人とはいえ、交戦したとなれば魔族達は魔法を使ったはずだ。それを返り討ちにしたってことは、相当な使い手だと考えていいと思う」


 魔術と魔法は違う。

 その一つの特徴に、出力の大きな差があった。

 魔族の中では比較的威力の低いグレイラディの魔法ですら、魔術師として熟練したホープの魔術を上回るのだ。

 バシアスやフェテレーシア級にもなると、正面からの撃ちあいではもう相手にならない。

 にもかかわらず、魔術師が魔族を倒しているとなれば、そんな奴が弱いわけがないのだ。


「第2に、手数の差。獣使いは同時に多くの獣を従えている。それらを四方八方から、一斉にけしかけられたらもうマズイ。対処できないままやられてしまうかもしれない。他にも、獣の数に任せた戦術なんていくらでも組み立てられる」

「だが、それに対抗して総出で迎え撃つなんてことは出来んぞ。万が一の事もある」


 ホープの言葉に、バシアスから待ったがかかった。

 確かに、これが陽動出なかったにせよ、街を守る者がいなくなったのを好機と攻め入られてしまっては意味がない。


「勿論わかっているとも。だから、今回使うのは最小の戦力だし、それでも獣の群れに負けない戦術くらいは組み立てている。一応、後で皆にも伝えるけど。なに、所詮ベースは獣、爪と牙さえ届かなければ恐るるに足りないってことさ」

「おい、ホープ! 慢心は……」

「わかってるよ、ルイ。相手は魔族の一部隊を退けた相手だ。油断は禁物ってことだろう? 確かに、神々との決別(エヌマエリシュ)と思しき者が相手となれば、いくら警戒しても、し過ぎってことはないだろう」


 そう言って、会議室の面々に向き直る。

 フェテレーシア、グレイラディ、バシアス、ガルハール、そして俺。

 1人1人の表情を確認する様に皆を見渡した後、ホープは


「敵は獣使い。多くの爪牙の中に、ボク達は飛び込むことになる。絶対に油断はできない――けれど、勝てない相手でもない。皆で、エフレアの平穏を守ろうじゃないか」


 力強く、そう口にした。

 その反応に満足したのか、ホープは微笑みを作る。


「じゃぁ、これから作戦を伝えるよ」


 それはいいが、ところで、何でホープが仕切ってるんだろう。

 それだけは把握することが出来ないまま、ホープの獣使い対策の講義が始まった。


出力の魔法、多様性の魔術

今のところはこんな感じで認識していただけると

※9/29追記 次回投稿は10/2の予定です

※12/3 改稿しました

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