種族の決め方がノリ
話に入れず隅でいじけている龍一郎をどうにか宥めながら連れてくると、
「で、なんじゃい」
「かくかくしかじか」
これまでの話を掻い摘んで説明すると、龍一郎は剣と魔法の異世界ねぇ、と呟く。
余り乗り気じゃなさそうだ。これは期待できる。
「何だよぉ親父、あんまり乗り気じゃないな」
「若い頃ならだったんじゃがのう。こんなガタがきた体じゃ剣も振れんしな……」
「
龍一郎は心底残念そうに嘆息する。浩二も言われてその事に気付いたのだろう。この世の終わりが来たかの様な顔をしている。
そこまで行きたかったのかと思う。だが親父の気持ちも分からないでもない。やはり異世界に行けるとなると男ならワクワクするものだ。しかし爺ちゃんももう年だし、親父も立派な中年だ。剣を振ったとしても腰を痛めるのがオチだろう。
そう思っているとピネマが補足説明を入れる。
「安心してください。龍一郎さん、浩二さん。異世界に行く時には体は多少なら若返れますし、種族何かを変えられる特典も付いてるんです!」
「「な、何だってー!?」」
「でも、お高いんでしょう?」
「いえいえ、そして今なら、この布団クリーナーをお付けしてお値段なんと……って違います!」
くるととは思わなかった。意外とこの女神様ノリいいな。
「ひゃっほい!!儂も異世界に行くぞぉ!!」
ちくしょう、爺ちゃんまで乗り気にさせてしまった。
「皆さん、意見は一致しましたか?では早速種族を決めましょうか。
レシュ、お願い」
レシュは頷き、手を打ち合わせて乾いた音を響かせる。すると九郎達の前に半透明の四角い枠が現れた。
各々、反応を示す。
九郎は素直に凄いと思い、浩二は現れた枠に驚き、龍一郎は何故かブリッジしている。
「異世界に存在する種族が表示するので、なりたいものをタッチしてください」
ウィンドウには人間や小鬼、魔族、槌小人から竜人まで多種多様な種族が説明付きで載っていた。
試しに適当な説明を読み上げる。
「……ゴブリンは力が弱く、小さいが手先が器用で数が多い。猪人と共に良く同人誌などに出演している。
狼人 普段は人間と大差ないが、変身すると並々ならぬ身体能力を得る。月などの丸いものを見ると興奮する変態が多い。
……何か説明がおかしい気がする」
何気なくレシュの方を見ると無表情だがどこか誇らしげに親指を立てている。
しかし、種族の説明を読んでいると案外最強の種族とかはいないな……。何処かが秀でていても別のところで劣っていたり、明確な弱点なんかが有ったりするようだ。
それならば下手に何かに特化するよりもオールマイティーに対応出来そうな人間にしておくか……。
それに違う種族になるという事に少しだけ怖くもある。まあ親父とか爺ちゃんはそんな気持ち微塵もないだろうが。
九郎が黙々と選んでいると、浩二の方から突然、これは……!?やフハハハハといった奇声が聞こえてくる。
選んでる時位静かにしてほしい。
しばらくすると全員が決め終わり、各々の種族を決定していく。
「悩んだんですけど、俺は人間のままにします」
「はい、わかりました。他のお二人はどうしますか?」
「儂はエロ…じゃなくてエルフにしようかのぅ。
エルフは長く生き、肉体も長い間若い頃の状態で留まる。体が老いていくことのキツさは経験済みじゃし。
そして何よりエルフと言えば美形!
イケメンに成って儂はドキッ!女だらけの龍一郎帝国を建国するんじゃあああ!!!」
「ちょっと待ったァァァ!!。ハーレムを作るのは俺だ!ジジイはゲートボールでもしてな。」
龍一郎は欲望に満ちた目標を真剣な表情で語り、割り込んできた浩二とどっちがハーレムを作るのかを拳で語り合っている。
ピネマは龍一郎の戯れ言を聞き、あれ、こいつらを送って大丈夫かな、と苦笑いを浮かべている。
最後に、龍一郎と拳と拳を交差させ、同時に倒れ伏している浩二にどうするか問う。
浩二はいったん殴りあいを休戦すると、急に語り出した。
「九郎…人間ってのは能力に限界があるなあ。
俺が短い人生で学んだことは………人間が策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策がくずされるってことだ!
人間を越えるものにならねばな……。」
浩二はポケットから何かを取りだし、人生で一番とばかりのドヤ顔で言葉を放つ。
「俺は人間を止めるぞ!九郎ォーーッ!あっ、種族は吸血鬼でお願いします。」
「お前それが言いたかっただけだろッ!」
《三仲九郎…人族 で決定されました》
《三仲浩二…吸血鬼 で決定されました》
《三仲龍一郎…長寿族 で決定されました》
それぞれのウィンドウに決定の通知が表示される。
「これでみなさんの種族が決定されました。では皆さんを異世界に転移させます。
二度目の人生を楽しく、悔いのないように生きてくださいね!」
すると九郎達の足元に巨大な魔方陣が現れ、光を放つ。光は段々と強くなると九郎達の姿を覆い隠し、やがて魔方陣が消え去ると九郎達の姿は消えていた。
九郎が光が弱まったのを感じ、光に眩んだ目を開けると緑生い茂る森が広がっていた。
異世界行くのおそくね?