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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界最期を迎える前に

 地球はあと一週間で滅びます――。


 唐突にそう宣告されても、馬鹿馬鹿しくて信じるわけがない。

 今日は四月一日ではないし、町ぐるみのドッキリ企画か何か、はたまた放送事故……という線を疑いテレビの臨時ニュースを眺めていた。画面に映るのは総理大臣に見えるが恐らく偽者。明日にはこんな放送をした局が謝罪をしてるに違いない。

 しかし翌日になっても謝罪のようなものはなく、テレビやネットでは朝から真剣にその話題について触れており、正直気持ち悪いと思った。朝食を食べながら母親も半信半疑でテレビに見入っている。

 ふと耳に入った情報だと、その地球を滅ぼす隕石とやらが目視で確認出来るという。

 学校に行く途中に空を見上げると、月とは別の方角に得たいの知れない球体を見つけてなんだか少し胸騒ぎがした。

 学校に着いてからもその話題で持ち切りで、某国の兵器、宇宙人、なんとかの預言等さまざまな憶測が飛び交っていた。

 なんだかお祭り気分で騒がしい感じがしたが、ホームルームにて担任から告げられた「本日から休校になります」の一言でお通夜のように静かになった。勿論、休校の理由は例の隕石だった。

 それまでは皆、他人事のように感じていたから騒げていたのだろう。しかし現実的に考えると、地球が滅びるイコール人類は死ぬ。つまり今こうして生きてる自分も死ぬという事である。

 「悔いを残さないように生きましょう」と魂の抜け落ちたような声で告げた担任は、この間結婚して子供も産まれたばかりでこれから明るい人生が待っていたはずである。

 その後静かに解散され、他のクラスや学年からも教室を離れる生徒の姿が多々見られた。学校生活の終わりは呆気なく、感情が追い付いていない。

 私は教室でしばらく友達と喋っていたが「彼氏と過ごしたい」「家族の側にいたい」と言い出されたので止めずに優先させたら一人になってしまった。

 悔いを残さないように、か……。悔いなんてあっただろうか?

 考えた末、一つだけ、気になる事はあった。正確に言うと気になる子だが。

 その同級生の席を確認するが、もう帰ったらしく見当たらなかった。私もいつまでもここに残る意味はないので帰ることにする。

 その子は小学校時代の親友だった。ポニーテールがよく似合ってて太陽みたいに眩しい笑みをしていた。私が落ち込んでると、いつも手を差しのべてくれて逆に私もそうしていた。

 けれど、この関係は小学校までで私は卒業と同時に父の仕事の都合で他県へ移り住む事になった。当然、中学は別々となったが毎週手紙は送り合っていた。

 しかし、その頻度は少なくなって行きいつしか関係は切れていた。お互いに、通う学校での新たな友好関係があるはずだし、離れて会えない友人に構う時間も惜しくなっていたのだろう。


 時は流れて、私は小学校時代を過ごした町に戻ってきた。懐かしいけどあの頃とは全てが違う。あの子も変わっていることだろう。

 そして高校生活初日の始業式。私は同じ教室に彼女の姿を発見する。

 初めは髪を下ろしていて誰だか分かりかねたが、名前が一致したしあの頃の面影があった。翌日からは何故か髪がポニーテールに結ばれていて、やっぱり同一人物だと確信した。

 向こうが私に気付いてるかは分からなくて、目が合っても話をすることはなかった。向こうも友人数名とよくつるんでいたし、私も新たに友人が出来ていてお互い孤独ではないように思う。

 それに話す機会があったとしても、何から話せばいいかわからないし気付けば始業式から数ヶ月経つわで、会話の糸口を掴めずにいた。

 それを今でもよく……いや、毎日? 気にしているように思う。それならこれが唯一の“悔い”なのかもしれない。

 そう思うと世界が、自分が、終わる前にもう一度話がしたいという衝動が強まった。

 同じ空間にいるからと、なんとなく先延ばしにして「いつか話そう」と逃げてたのが今なら分かる。三年も会えなかったし子供の頃の事なので、今更どうでもよく思われてたり、忘れられてたり、自分の知らない存在になっていると考えると確かめるのが怖かった。そしてその「いつか」が来る日があったかも怪しい。

 進路方向を新居の自宅から、あの子の家へと変更する。もたもたしてると時間がもったいない気がしたので家には戻らない。

こんな事態に追い込まれないと時間は無限にあると勘違いしてる辺り、本当に現金なヤツだなと自分を嘲笑した。

 今でもあの子が同じ家に住んでる保証はない。しかし、今から知る手段もないので祈って進むしかない。

 記憶を頼りに、懐かしい路地や公園を横切り目的の家に着いた。表札もそのままで庭も手入れされている感じで、人が住んでる気配があった。

 インターホンに指を当てると緊張で手が震えてることに気付く。引く理由も無いので思い切って押した。数秒後。


 「はい。どちらさ――ま……」


 あの子、改め祐実が玄関先に出てきた。髪は結われてなかったが、別にそれでも可愛かった。

 そして私はというと本人を目の前にして口がぱくぱく、魚が水面で呼吸を行うみたいになって言葉が出せずにいる。


 「ち、ちょっと待ってて」


 祐実は何故か一旦ドアを閉めた。呆気にとられるが、私も少し落ち着く時間が出来た。再びドアが開けられると髪型がポニーテールになってた。すごく似合う。けどなんで?


 「えっと、ゆ、ゆみちゃん……?」

 「う、うん。そうだよ」


 当時の呼び方で呼ぶと、ちゃんと返してくれた。嬉しいけどお互いぎこちない感じだ。


 「ひ、ひさしぶり」

 「毎日学校で、会ってるよ」

 「そう、だね……」


 少し頬を膨らませてむすっとされてしまう。怒らせたかと思いきや、すぐにその顔は崩れて、目尻から雫が溢れそうになる。


 「忘れられたかと、思ってた」

 「ち、違う! なんていうか、なに話していいかわからなくて、その……ごめんっ!」


 気の利いた言葉が編み出せず、ありのまま思ったことがそのまま口に出て情けない。


 「私もそうだったよ」

 「そう、なんだ……」


 どうやらお互い同じ思いではいたようだ。けど、それなら私よりも行動力があって、いつも私を引っ張ってくれた祐実から話し掛けてくるかとも思ったが。


 「中学になって、手紙送る量が減って、来なくなって……嫌われたのかと思ってた」

 「わ、私も送ったけど、ゆみちゃんと同じ気持ち、だったよ……?」

 「私は二十一通送ったよ。お、覚えてるもん」

 「えっ、私はもっと送ったはず。いや、送ったよ!」

 「うそ。二十通だった」

 「え~、絶対もっと送ったよ」


 それから取るに足らない痴話喧嘩みたいに発展したが、この感覚が懐かしくて愛しくて、もっと早くに声を掛けるべきだったと後悔する。

 それから、もっと話したいとのことで家に上げてもらったが、部屋に入るなり祐実がいきなり泣き崩れてしまい私も感極まってか、もらい泣きしてしまった。

 しばらくして私の方が早く落ち着いたので、流れで昔みたいに祐実の頭を撫でた。当然、成長してるので昔とは異なる不思議な心地でドキドキした。


 「あ、会いにきてくれたから許す。遅かったけどね」

 「うん、ありがとう」


 ここで反発するのもなんなので、折れて祐実の発言を受け入れる。それにこうなった経緯は、私に勇気がなかった事にもある。和解出来るならなんでも嬉しかった。


 「ねえ、あれしていい?」


 そう言うと祐実は腕を広げて、私に身体を預けてきた。簡単に言うと、抱き付いてきた。

 これはよく小学校時代にやっていた励ましの行為の一つだ。当時は背丈も大差なくお互いの肩に顎を乗せるような形になっていたが、今は祐実の頭に私の顎が乗っかりそうだった。


 「なんか、胸大きくなったよねー」

 「……それ、セクハラ発言?」

 「違うよー。ふかふかだあ」


 祐実は私の胸に顔を埋めながら、回した手に力を込めてぎゅっとしてくる。

 い、いいのかな? と思いつつ私もぎゅっと締め返す。祐実の身体は暖かかったし、お互いこうしたまましばらくぬくもりを確かめ合った。

 久しぶりの感覚に心臓の鼓動が強まり、祐実に伝わってないか気になるがそれでも構わない。むしろこの胸の高鳴りを知ってほしかった。


 「地球終わる前に、またこうできてよかった」


 満面の笑みで祐実がそう言った。待ち焦がれたその表情に胸が満たされるようだった。


 「そういえば、終わるんだっけ?」


 あと六日もすれば隕石が落ちてきて地球は滅びるらしい。未だに実感が沸かないが、周囲のムードから“終わる”という事だけはなんとなく察している。


 「なんでこんなに近づくまで見つからなかったんだろう? 人工衛星とかで分からなかったのかな?」

 「特殊な電磁波を纏ってて衛星にも掛からなかったらしいよ。その隕石の電磁波で、衛星に影響が出て初めて見つかったみたい」

 「詳しい、ね。興味あったりするんだ? こういうの」

 「友達が詳しいだけだよ」


 友達。その響きになんだか胸がチクッとした。当たり前だが、私と離れた三年間で築かれた友好関係がある。私もその輪に入れるだろうか? いや、入りたい。


 「今更だけど、また友達に、戻れるかな?」

 「もう戻ってるじゃん。それより、昔約束したこと覚えてる?」

 「約束……?」

 「うん。大きくなったら……ってやつ」


 ああ、そういえば。ちゃんと覚えてる。確か“大きくなったら結婚しよう”って約束だったはずだ。今考えると恥ずかしいというか……なんで今この話が出てくるんだろう?


 「えっと、うん。覚えてるけど」

 「けど……?」

 「なんで、急にその話?」


 あっさり友達に戻れたことに肩透かしを食らった挙げ句、いきなり話が飛ぶとこうもなるだろう。しかし、祐実はお構い無しに口を開く。


 「好きな人とかいる?」

 「えっ、いないけど」

 「残念。私はいるのになー」

 「ええっ!?」


 唐突に強いショックを受けた。いや、この年頃ならいてもおかしくない。でも、なんでこんなに胸がざわつくんだろう。祐実には幸せになって欲しいし、祐実が幸せなら私も幸せなはず……。いや、違う――。

 知らない誰かと祐実が幸せを分かち合うシーンを想像してみると、涙を飲む自分が浮かんだ。私以外にあの笑顔が向けられるのが嫌だと強く思った。ということは……つまり。


 「あ、あのね! 私は……」

 「うん?」

 「私は、やっぱりゆみちゃんが好き、大好き!」


 一気に想いを吐き出した。胸が苦しくなって目までぎゅっと瞑る。拒まれることの恐怖に震えが止まらなかった。言わない方が苦しい思いをしなかったのでは? と考えていると、優しく頬を撫でられ目を恐る恐る開く。


 「私も、さーちゃんが好きだよ」

 「へっ……!?」


 久しぶりに聞いたその呼び名。“さーちゃん”とは私のことだ。そして今“私も”って言ったような。聞き間違いでなければ。


 「両想いだよ。やったね」


 祐実の笑顔にまた涙が溢れてきた。しっかり見ていたいのに視界がぐちゃぐちゃにぼやける。嬉しいのにこんなに泣けることなんて今までにあっただろうか?

 今度は祐実にあやされていて、さっきとは逆で頭を撫でられてる。時々、耳や首筋に触れてきてくすぐったい。昔はよくお互いにこうして励まし合っていたものだ、と懐かしさに浸っていると気分が落ち着いてきた。


 「この髪型、今でも似合うかな?」

 「うん、とっても可愛いよ」


 ポニーテールを揺らす祐実は少し誇らしげだった。私の感想はというと嘘偽りはないのだが、なんだか簡素だ。もっと褒め方のボキャブラリーを増やしたいと心から思う。


 「さーちゃんの前でだけするようにしてたんだから」


 そういえば、さっきもわざわざ髪を結び直していた。それに私の前でだけって……。つまり、どういうことだろう?


 「な、なんで?」

 「昔からすごく気に入ってくれてたみたいだったから、他の人の前ではなるべくしたくなかった。なんか、変だよね?」


 そう言うと祐実は私の肩を押し、そのままベッドに押し倒される形となった。突然のことに脳の処理が追い付かない。心臓が痛いくらいに脈打つのだけが理解できた。


 「あっ、ゆみちゃ――」

 「さーちゃん。キスしても、いい?」


 私を組み敷いた祐実は真剣な眼差しでそんなことを聞いてくる。だけど荒い息づかいは興奮を隠せておらず、妙に艶っぽい。

 私もきっと似たようなもので違いがあるとすれば喉から声が出せず、頷くことしか出来ないくらいか。

 やがて軟らかい唇が私のに重なり、ほんとにキスしてるんだなと実感した。経験がないし予習なんてもちろんしてないので、上手く出来てるのかはわからない。けれど初めて味わう甘美な刺激に飽きることはなく、時間を忘れてお互いを求め合った。

 予想と違ったのは、長い時間やってると意外と疲れるということだ。私のやり方が悪かったのかもしれない。要勉強だ。


 何時間キスを重ねていただろう。私達はベッドに横になり向かい合っていた。

 さっきまでしていた事を考えるだけで顔から火が出そうだった。祐実も同じなのか視線をあまり合わせてくれず、恥ずかしそうにしてる。


 「ごめんね、急に」

 「な、なんで謝るの?」

 「いきなりこういうのは嫌だったでしょ? 女同士だし」

 「嫌だったらあんなにしないよ。それに私はゆみちゃん大好きだし。問題ないよ」

 「あ、ありがとう」


 はにかむ表情も愛らしく、こっちも少し照れてしまう。


 「明日は、ディステニーランドでも行こうか?」

 「えっ、どうしたの急に?」

 「思い出たくさん作らなきゃ。時間少ないし、式も挙げたいし」

 「式!? ってもしかして、あの約束の……?」


 祐実はこくりと頷く。それはつまり、結婚式のことだろう。けど、確かに今やらないと約束を果たすのは難しいだろう。というか果たしてしまっていいのか、そうか……。内心、小躍りした。


 「電車止まってるし多分、ディステニーランドも営業してないかもよ?」


 みんな世界終焉に向けて、思いのまま過ごしているはずだ。そんな時まで従業員も仕事なんてしなさそうな気もするが。


 「こんな時だからこそ、みんな意外といつもと変わらなかったりして」

 「あー、そういうものなのかな?」

 「そうだよ。きっと」


 確かに、一理あるなと思った。終わりを今か今かと怯えて待つよりは有意義かもしれない。それに、大勢の人といられるのも心強かったりするのかな?

 祐実の考えに委ねて、私も夢の国に行く決意をする。それから大まかな予定を立てた。


 「明日から新婚旅行だね!」


 世界が終わる事を微塵も感じさせない明るい声音とその内容。

 いや、終わりは関係ないのかもしれない。祐実と私ならいつどんな状況でも、楽しめているはずだから。


 その夜、家族とお別れの為に一旦家に帰った。電車が使えない今、夢の国までは道のりが遠く歩いて行くには数日掛かりそうだった。家に往復する時間は恐らくないので、家族とはお別れになる。

 認めてもらえないかもと思いつつ事情を話すと「地球が無事だったらまた会おう」なんて父には粋なことを言われた。母も父がいるから寂しくないらしく自由にしてくれとのことだった。ありがとう、お父さん、お母さん。

 普段通り夜は寝て、翌日は朝から祐実を迎えに行った。


 「おはよう」

 「おはよーう。いい天気だねえ」


 祐実は少し眠そうに玄関から出てきた。ちょっとした長旅になる事はわかっているようで、少し大きめのリュックを背負っていた。私も似たようなものだ。


 「気を付けてね」


 祐実の母親が、見送ってくれる。穏やかな表情で笑んでおり、祐実も大人になればこういう感じになるのかな? と予想したりした。


 「じゃあ、行こっか」

 「うん」

 「手、つなぐよね?」

 「もちろん!」


 二人でならどこまでも行ける気がした。握られた手を握り返して感触を確かめる。

 きっと夢の国にたどり着くまでにもいろいろな出来事があって、それら全てが思い出になるだろう。それが楽しみでしょうがなかった。もうこれ以上離れたくないし離れるつもりもない。


 世界が終わるまで一分一秒でも多く祐実のことを心に刻むと誓った。

読んでいただきありがとうございます!


衝動的に思い付いたものが形になりました。

続編や別パターンも考えてたりなかったり……


長編の百合もちまちま更新してますので、

よければよろしくお願いしますね。

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