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怪異とは人間
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「柳原先生は、憑き物家の正体は人間の僻みや妬みだって仰ってました。同じ村で同じように生活をしているのに、ある日突然その家だけが裕福になった現象の理由づけなんだそうです。今は、そんな馬鹿馬鹿しい差別はほとんどなくなったらしいですけど」
「どうして、憑き物家を?」
「……ただ、興味があっただけです」
民俗学は、知れば知るほど怪異から遠ざかるような気がする。
その代わりに、人間のいろんな部分が見えてきて、そのうち人間の方が怪異なんじゃないかと思えてくる。
少なくとも、あたしを見てたあの大人たちの目は、人間の目じゃなかった。
宗旦狐は、本をぱたりと閉じる。
その表情は、なにかひどく思いつめてるような、そんな哀愁を帯びてた。
「朝倉先生?」
「……すみません。ありがとうございました」
そう言って、宗旦狐は本を棚に戻した。