憑き物家
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宗旦狐は、棚に立てかけられてる最新の紀要の表紙だけを一通り眺めてから、隅の本棚に近づいた。
「そこは、あたしの私物の本が置いてあります」
「憑霊信仰論、憑き物、狐憑き……憑き物についての本が多いですね」
宗旦狐は狐憑きについて書かれた本を、一冊手にとってめくり始める。
「憑き物家について、調べてたんです。ーー朝倉先生は、憑き物家を知ってますか?狐とか、犬神とかに憑かれた家のことです。憑かれた家は、憑き物に護られて裕福になると言われてます」
あたし、何度も読み返した憑き物について書かれた本の内容を思い出す。
「でも、狐憑きや犬神憑きの家の女は、他の家に嫁ぐとその家までも憑き物家にしてしまうから、憑き物家の女は娶るなと言い伝えられてたそうです。憑き物家とされた家人たちは、そうやって村のなかで差別を受けていたんです」
ーー見て、憑き物家の子だよ。可哀想にねえ。
ーーあそこは憑き物家の子だから、近づくんじゃないよ。
ーー憑き物家の人間が、うちの子に近づかないで!
今でも、たまに夢に見る。
黒い服を着た大人たち。
蔑んだような、哀れんだような目。
あの頃のあたしは、大人が全員敵だった。