仏様様
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「僕、こう見えて凄く焦ってるよ」
「あたしが帰ったら存分に仕事してください」
「それがさあ、こっちもこの後飲み会なんだよ」
……なんですって?
「え?先生も合コンなの?」
「五十三にもなって合コンなんかしないよ。来学期から非常勤講師として近現代文学の先生がくるんだ。ほら、北条先生が来年で定年だから、その後釜としてね。今日は歓迎会で、常勤講師は全員参加になってる」
忙しいとか言いながらよく喋ってくれる大旦那だ。
北条先生。
通称、仏。
あたしは在学中に三年、四年とこの仏のゼミで生き抜いた。
つまり、近現代文学専攻だった。
古典が大嫌いで、半ば駆け込み寺のように仏ゼミに入ったのだ。
それに加え、卒業課題として小説制作を取り扱ってくれるゼミが仏しかいなかった。
卒業課題といえば、通常この大学では論文か書道作品の提出である。
長編小説を卒業制作として提出する変わり者は、あたししかいなかった。
文字数にして二十七万字。
さすがの仏も目が痛いと泣いてた。
しかも、仏にはこの資料室の仕事も推薦してもらってる。
そんなわけで、あたしは仏様には一生頭が上がらない。
その仏が来年で定年なんて信じたくなかった。
まさか、あたしより先に大学からいなくなってしまうなんて……。