只今仕事中
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「で、行くんだ?」
「……行くんです」
「物凄く嫌そうだね」
「……物凄く嫌なんです」
合コンの日にちが決まるのは思ってた以上に早かった。
渡辺先輩にセッティング頼んだ次の日の夜には、もう日時と店まで決まってた。
渡辺先輩の友だちの行動力恐ろしい……。
で、今日がその合コンの日なんだけど、あたしは大学で十七時まで仕事があるから、仕事帰りに駅で幼馴染と先輩と待ち合わせの約束をしてる。
現在、目の前にいる大旦那こと佐々木先生は、口髭を撫でてからあたしの方をちらりと見た。
「その割にいつもよりお洒落だね」
「本当は、半袖にガウチョパンツの予定だったんです。幼馴染に叱られて選び直しました」
夏休みに関わらず、締め切り間近の論文があるらしく、大旦那は資料を眺めながらあたしの話を聞いてくれる。
先生たちの研究室がある十号館は、いつも以上にひっそりとしてた。
あたしの仕事場もこの十号館の二階にあるんだけど、今は三階の大旦那の研究室でティータイム中。
「で、どうでもいいけど、君。仕事中だよね」
「あと三十分で終わるから、相手して」
「暇を持て余したOLじゃないんだからさ」
いやマジで夏休みの資料室ほど暇な仕事ってない。
資料室は、基本一人勤務で他大学から送られてくる研究論文(紀要)の受入、及び学生に多数資料の貸出を行っている。
あとは、たまに大学の先生の事務的な手伝い。
夏休み中の現在、この紀要の受入以外ほとんど仕事がないに等しい。
ただでさえ授業中でも利用者数は限られてるのに、夏休み中にわざわざ大学来て資料室で勉強なんてする意識高い学生がいるわきゃない。
あたしだって在学中にそんなことしなかった。
いや、正直、在学中に資料室に行ったことなんてほとんどなかったんだけど。