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あたしは大人だから
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大河原は、完全にうつむいて宗旦狐から目を逸らしていた。
「私はただ、月川さんに将来困ってほしくないから……」
「月川さんには、その気持ちが届いていなかったように思えます。私みたいな新米が言うのもおこがましいですが、気持ちの伝え方を少し考え直したほうがいいのではないでしょうか」
そこまで言われた大河原は、これ以上反撃する術を失っていた。
肩をすくめて、
「そうね、言い過ぎだわ。月川さん、ごめんなさい」
と、大人しく謝った。
謝って済めば警察なんていらねえんだよ。
と、言いたいところだけど、あたしは大人だからグッと飲み込む。
「こちらこそ、生意気なことを言ってすみませんでした」
互いに頭を下げたところで、今まで傍観してた大旦那が、この微妙な空気を一掃するような大欠伸した。
「あーあ。……そんじゃ、帰ろうか」