66/416
開いた口が塞がらない
66
「あたし、仕事中なんです」
だから、あなたに構ってる暇なんてない。
というか、絡む相手、どう考えても間違ってんでしょ。
ほぉら、よく考えて?こんなデブスと絡んでなにが楽しい??
そんな思いを込めての台詞だったのに、宗旦狐はなぜか表情を明るくする。
「じゃあ、休日ならいいんですね?」
……は?
「ちがっ……」
「渡辺さん、今度資料室の予定表を俺のポストに入れておいてもらえますか。手違いで俺のにだけ入ってなかったみたいで」
「あれ、すみません。あとで入れときますね」
手違いじゃねえってわかってて言ってやがるなこの狐!!
「それじゃあ、佐々木先生に会ってきます」
宗旦狐、「お邪魔しました」と言って席を立つ。
それから、思い出したかのように、あたしに笑いながらこう言った。
「なるみさん、ミスディオールに香水変えたんですね」
……え。
開いた口が塞がらないとは、まさにこのこと。
あたしは口を開けたまま、十号館に入っていく宗旦狐を見送った。