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この脂肪削ぎ落としてくれえええええ!!!!

410


あたしと宗旦狐は、一足先に病室を出た。

廊下を二人で歩く。


「なんとかひと段落ですねー」


いやあ、疲れた。

でも、結果的にまるっと収まったし、あとはもう本人たちがなんとかするでしょう。


「本当に、ありがとうございました」


と、突然宗旦狐が改まってお礼を言ってきた。


「なるみさんがいてくれて、本当に助かりました。なるみさんが言ってくれたから、父も母も天真も、変われそうです」


そんな、畏まって言われると、なんかむずむずする。

でも、今ならあたしも少しだけ素直になれる気がした。


「先生のおかげです。あたし、先生と会うまで自分と家族以外の他人とか、どうでもいいと思ってました。……でも、先生のこと好きになって、なんかちょっと変われた気がします」


世界が広がったっていうか、明るくなったっていうか。

あたしの箱の中、結構いろいろなもん入ってんじゃんって気づけた。


いや、宗旦狐が入れてくれたのかな。



無言の宗旦狐。

不審に思って横を向くと、口元を手で押さえてる。


「なるみさん……俺、嬉しすぎて泣きそうです。諦めないでなるみさんのストーカーしててよかった……」


「そういえばストーカーでしたね!」


よもやこのストーカーを好きになるとは。

人生何があるかわからんな。


「月川さん」


と、背後から呼ばれる。

振り返ると、綾子さんが追いかけてきてた。


綾子さんを見ると思わず身構えるの、直さないとな。


「どうしました?」


「主人から、天真のことも、全部聞いたわ。……あなたがいなかったら、きっとあの人、今も話してなかったと思います」


ああ、天真さんが斎玄さんの子じゃないって話、聞いたんだ。


と、綾子さん、あたしから目を逸らす。


「だから……その……感謝してるわ。でも、だからと言って宗辰とのことはまた別ですからね」


……ツンデレかよ。


「母上、俺は何を言われてももう家には戻りませんよ」


「わかってる。後継ぎのことは、あの人に任せるわ。ーー朝倉家の嫁に来るなら、其れ相応の覚悟をなさいと言ってるのよ」


よ、よめ?

いや、気が早くね?


あー、宗旦狐の目がきらきらしてる。


「なるみさんとの交際を、認めてくださるんですか?」


「……好きになさい。ただし、順番を間違えたりしたら承知しませんからね」


「それは大いに同感です。承知しませんからね」


と、宗旦狐に釘をさす。


「あら、意外とまともな貞操観念を持ってるみたいね」


「意外とってどういう意味ですかねえ、お義母さま?」


「そのままの意味よ」


「……嫁姑問題に発展するの早くないですか」



そんなこんなで、とりあえず、宗旦狐との交際は認められたのだった。



宗旦狐の車に戻ってひと息つく。


「今日って、大晦日なんですよね」


開いた端末の日付を見てふと思う。

年が開ける前になんとかなってよかった。


「先生、これから塾ですか?」


「いえ、休みなんです。でも、今日はさすがに家にいたいですね」


激しく同感。

なんかもう、一気に肩の荷が下りて脱力感が半端じゃない。


「ところで、なるみさんいつから俺のこと名前で呼んでくれるんですか?」


「またその話ですか」


「もう交際の許可はもらったわけですし、ステップアップもできますよね?」


「今さっき順番間違えたらダメだって言われたじゃないですか!」


「もちろん、子どもは結婚してから考えます。安心してください、用具は各種取り揃えてますから」


い、いつの間に……!?!?

ってか、各種ってなに!?!?

やる気まんまんじゃねえか!!!


「あー!急に実家に帰らねばならないような気がしてきましたっ!!」


「逃がしませんよ?運転手は俺ですからね」


「待って!!ダイエットする!!するから待って!!」


「もう待てません。ちゃんと俺の名前が呼べるようになるまで、優しくじっくりみっちり教えてあげます」


ひいいい!!

目がマジだ……!!


「せめて!せめて全身整形を……!!」


「大丈夫です。俺、なるみさんが男でも自信ありますから」


なんの自信だ馬鹿野郎!!!


「お、お慈悲を……!!」


「そんなものありません」


誰かあああああ!!

この獣物なんとかしてくえええええ!!!

それかこの脂肪削ぎ落としてくれえええええ!!!!


あたしの絶叫は、心の中で虚しく響き渡るのだった。

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