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よしよし、いい笑顔だ

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次の日、天真さんは目を覚ました。


病院から連絡があった頃、あたしと宗旦狐はちょうど家にいて、天真さんのそばにいなかった。


急いで病院へと向かい、病室を開けると、天真さんはベッドで上半身を起こしていた。

そして、あたしたちを見るなりどういう顔をしたらいいのかわからないというような表情で、しばらく無言で俯いてた。


「天真、父上から全部聞いたよ」


宗旦狐の言葉に、天真さんはようやくこちらを向いた。


「父上は、もう一度やり直してちゃんと償うと言ってた。俺たちもやり直そう。もう一度、家族として」


天真さんは下唇に噛み付いて、ぼそぼそと呟き出す。


「……私がしたことは……許されることじゃ……」


「許しませんよ」


あたし、じろりと天真さんを睨む。


「先生が許したとしても、あたしは絶対、ぜえったい、許しませんよ。……だから、ちゃんと生きて、やり直してください。それが償いです」


天真さんは、情けなく顔を歪めて涙を流し出した。


「返事は!」


「……はいっ」


「よろしい。それでこそ我が義弟です!……義弟で、いいんだよね?」


「……ふふっ、はい……義姉上」


よしよし、いい笑顔だ。

あたしの隣に、天真さんよりもいい笑顔を浮かべてる狐が一匹いるけど。


「なるみさんと天真が家族になるってことは、つまり、なるみさんは俺と結婚してくれるってことですよねっ?そういうことですよねっ?」


「そうですね、あたしがあと三十kg痩せるまで待ってくれるなら」


「……全身整形する気ですか?」


「自力では無理だってか?あん?」


「いや、なるみさんは今のわがままぼでーのままの方が……」


「わがままぼでー言うな!」


なんか、こういうやりとり久しぶりな気がする。


「桜花さん!」


と、病室の出入り口からほのかさんの声が聞こえてくる。


ほのかさんは涙目で天真さんに近づくなり、抱きつくのかと思えば、右ストレート食らわせた。

パーじゃなく、完全にグーパンチだった。


「ほ、ほのかさん!?」


気持ちはわかるが、生きててよかったって思える環境づくりはどうなった?


「ばかばかばかばかばかあ!!うわあーん!!桜花さんのばかあああああ!!」


「ご、ごめんなさ……ぐふっ……!」


あーあ、天真さんの顔、爆乳で潰れちゃってる。


「なるみさん、今度俺にもあれやってください」


「ちょっと黙っててもらえますか」


子どもみたいな純粋な眼でなんてこと言いやがる……。



「……天真はいますか」


と、今度はお淑やかな声が聞こえてくる。

振り返ると、和装の綾子さんだった。


あたし、瞬時にほのかさんをひっぺがして落ち着かせる。


綾子さんは、おずおずと天真さんに近寄った。

しかし、綾子さんと天真さんはお互いに目を合わせない。

あたしと宗旦狐は、固唾を飲んで見守った。


口火を切ったのは、綾子さんの方だった。


「その……今まで、ごめんなさい。どう、接していいのか……あたくしにもわからなくて……。今更、許してもらえるかわからないけれど……もう一度、あなたの母親としてやり直せないかしら」


天真さんは、信じられないというような表情を浮かべていた。


いや、あたしもちょっと、俄かには信じられない光景だわ。

あの、綾子さんが、こんなお淑やかに人と会話したり、人に謝ることができたなんて。

ちょっと涙出そう。


天真さんは、やがて照れたような笑顔を向けてこう言った。


「私の母上は、私をここまで育ててくれたあなただけです」


途端、綾子さんはぽろぽろと泣き出す。


「……天真っ!」


綾子さん、天真さんにひしっと抱きつく。

その姿を見て、何故かほのかさんが号泣してた。



ーー結局、天真さんが入院中、松永さんは一度も病室に顔を出さなかった。


それがきっと、松永さんの覚悟なんだと思う。

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