斎玄さんが目覚める時
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それから、あたしたちは斎玄さんがいる部屋へと松永さんに案内された。
松永さんは、もう泣いてなかった。
「もう直ぐ、目が覚めると思う。傷がそんなに深くなくてよかった」
斎玄さんは、静かに寝息を立てていた。
「松永さん、お聞きしたいことがあります」
と、宗旦狐が松永さんに向き合う。
「なぜ、天真を父に引き渡したんですか」
少し、責めているような口調だった。
「朝倉家の、後継ぎのためよ」
とは言うものの、いくら朝倉家が後継ぎ問題を抱えていたからって、自分の子どもを引き渡す動機にしては薄いような気がする。
無理やり引き離されたようにも思えないけど。
「これ以上は何も言えないの。ごめんね」
あたしと宗旦狐の気持ちを察したらしい。
松永さんは、悲しそうに笑いながらこう言った。
「……私が話そう」
と、斎玄さんの声が聞こえる。
ベッドを覗くと、いつの間にか斎玄さんは目を覚ましてた。
「父上、気分はどうですか」
「問題ない。ーー世話になったな、松永」
松永さんは、斎玄さんに怒りを込めた視線を送る。
「本当に。どういうことなのか説明して。どうして天真が、あなたを刺すようなことをしたの。朝倉くん、言ったよね?天真は必ず幸せにするって」
「……すまない」
刺々しい松永さんの言葉に、斎玄さんはただ謝ることしかできないようだった。
「天真はどうした」
斎玄さんの問いに、宗旦狐が答える。
「首を吊りました。でも、命に別状はありません。今は隣町の病院にいます」
「……そうか」
斎玄さんは、こうなることを予想していたのか、取り乱すようなことはなかった。
「天真さんは、遺書を書き残してました。そこに、斎玄さんと約束をしたと書かれてたんです」
「内容については書かれていましたか?」
「いいえ。天真さんにとって、それが朝倉家と自分を結ぶ、ただ一つの繋がりだったそうです。ーー斎玄さん、天真さんとどんな約束をされたんですか」
あたしが問うと、斎玄さんと松永さんは目配せをした。
「……ああ、もう充分だな。全て、お話します」
斎玄さんはそう言って、話し出した。