……なんですと?
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天真さんがいる病院から、斎玄さんがいる松永家までは約一時間くらいで着いた。
着いて早々、室内に綾子さんの怒鳴り声が響きわたる。
……ほんっとに、元気なばばあだな。
あたし、内心うんざりしながら綾子さんの金切り声を聞いた。
「あの人は、他の病院で診てもらうと何度も言っているでしょう!?さっさと引き渡して!!」
綾子さんは、松永さんに絡んでた。
松永さんは、面倒そうに頭を掻いてる。
「だーかーらー、今無理に動かすと傷口開いて危険だって言ってるでしょうが。もうこのやりとり何回目かわかってる?」
わー、既に険悪。
宗旦狐も眉間に深いしわつくってる。
「母上」
と、宗旦狐が嗜めるように声をかけた。
すると、宗旦狐に気づいた二人がほっとしたような表情を浮かべた。
綾子さんは、縋るように近づいてくる。
「宗辰からも言ってちょうだい。あの人はちゃんとした他の病院に行くって!」
相変わらずあたしのことはガン無視。
まあ、突っかかって来られるよりはマシだからいいけど。
「天真は何をしているの?まったく、この大変な時に……」
綾子さんのこの台詞を聞いた松永さんが、ふいに目を伏せた。
宗旦狐は、息をついてからその重い口を開く。
「天真は、首を吊りました」
宗旦狐の言葉を聞いた誰もが、目を見開いた。
そんなはっきり言っちゃうんだ……。
「どういう……」
「宗辰くん、どうこと!?」
と、綾子さんを押し退けて、松永さんが宗旦狐に飛びかかった。
綾子さんも、見るからに顔を青くして動揺してる。
「安心してください。なるみさんが早く発見してくれたおかげで、一命は取り留めました」
宗旦狐がそう言うと、二人は一斉にあたしの方を見た。
あたし、なんて言っていいかわからず、とりあえず笑ってみる。
松永さんは、「ありがとうございます」とあたしの手を握った。
なんか、特に何もしてないのに気恥ずかしい。
「まさか……あの人を刺したのって……」
綾子さんは、斎玄さんが闇医者の松永さんを頼った理由に勘付いたらしい。
「父上を刺したのは、天真です。どうしますか、母上。それでも、父上を病院へ連れて行きますか」
綾子さんは、下唇に噛み付いて黙り込む。
「なんで天真がそんなこと……」
「母上なら、心当たりがあるんじゃないんですか」
「なんのことよ」
「天真に、なるみさんを殺せと命令したそうですね」
……なんですと?