冗談に聞こえないのが怖い
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「俺はこれから、父のところに行こうと思います。なるみさんは、天真とほのかさんのそばにいてやってください」
と、宗旦狐は言った。
「あたしも行きます」
宗旦狐はあたしの即答に苦笑を浮かべた。
こうなると思ってたから、前もってほのかさんに連絡先を渡したんだろう。
「斎玄さんは、もう目覚めたんですか?」
「今の所、その連絡はないですね。ただ、母の相手をしてる家の者と松永さんが気になるので。ーー今の母は、あなたになにを言うかわかりません。できれば、会わせたくないんですが」
「あたしは大丈夫です。連れてってください。これを、ちゃんと読んでもらいたいんです」
あたしは鞄の中に入れてた分厚い封筒を見せた。
天真さんの遺書。
めっちゃ重かった。
「読むかどうかわかりませんよ」
「きっと、読んでくれると思います」
血は繋がってなくとも、愛人の子であっても、天真さんをあそこまで育てたのは綾子さんだ。
きっと、読んでくれるはず。
「……わかりました。一緒に、来てくれますか」
「はい!」
宗旦狐は車を発車させた。
いざ、戦場へと参らん。
あたしの心は勇んでいた。
車は無言のあたしと宗旦狐を乗せて、松永邸へと向かう。
車内に流れるラジオ番組では、今年やり残したことは?というテーマでリスナーの回答を受け付けてた。
そうか、もうあと二日で今年終わっちゃうのか。
「なるみさん、ひと段落ついたらデート行きましょう、デート」
宗旦狐も同じこと考えてたらしい。
乞うような声を出す。
でも、
「先生、それフラグです」
俺、この戦いが終ったら、あの子に告白するだっ!
並みにフラグ立っちゃってる。
絶対それ実現しないやつ。
「フラグはへし折るものです」
宗旦狐にしては、珍しく穏やかじゃないな。
でもまあ、大賛成。
「じゃあ、文学散歩に連れてってください。あたし、作品論ばっかりやってたから、作家についてはそこまで詳しくないんですけど」
「任せてください」
あ、そういえば宗旦狐の本職、近現代文学講師だった。
いろいろありすぎてすっかり忘れてたわ。
「これで、しばらくは精神的に持ちこたえられそうです。拒否されたら発狂してました」
「冗談に聞こえないのが怖い」
いやほんと、まじで勘弁してくれ。