考えるのはやめよう
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「……ぷっ、ははっ……!」
と、宗旦狐、急に噴き出して笑いやがった。
あたし、むっとした顔を向ける。
「……いや、あまりに、なるみさんが素直で。本当に、あなたのそういうとこが好きです」
なんでだろう。
宗旦狐にそう言われると、なんか馬鹿にされてるような気がする。
「さなえとは、部屋は同じでしたが本棚で仕切って過ごしてたので、なにもありませんでした。……もちろん、年頃だったので、そういう気を起こすこともありましたけど」
……ほほう。
「東城家は、朝倉家よりも婚約に積極的でした。さなえも、家の言いなりだったんです。親戚から圧力をかけられてるさなえを見たことがある弟子は大勢いました。さなえにとって、朝倉家に嫁ぐことが存在意義だったのかもしれません」
と、宗旦狐はさなえさんのことを思い出すかのように語り出す。
宗旦狐と付き合ってるあたしが言うのもあれだけど、あの家に嫁がせて、娘が本当に幸せになれるとでも思ってたんだろうか。
「東城家は、少なからずうちに借金をしていました。その借金をなんとかしたくて、さなえを差し出したんだと思います。母もさなえのことは気に入ってたので、父も快諾していました」
「子どもの意思は、完全無視ですね」
「そうですね。俺はいつか家を出るつもりでいたので、表面上だけさなえを愛しました。さなえにも、そのことは前もって話していたんです。でも、さなえは『家を出るまででいいから、そばに置いて』と言って、離れようとしなかった」
それは、宗旦狐が好きだったからなのか、それとも親戚からの圧力から逃れるためだったのか。
或いはーー
ーーわたしを助けてくれる人は、いつだって天真ちゃんだったよ。
さなえさん、あなたが好きだったのは……。
いや、考えるのはやめよう。
今更、さなえさんの本当の気持ちなんて、確認しようがないんだもん。
それに、知った所で、あの人の後悔が増えるだけだろうから。