ぜんっぜん気になんねえわー
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病院に着いて、天真さんの病室へと向かう。
天真さんは、個室の白いベッドの上で眠っていた。
「顔色いいですね。安心しました」
と、ほのかさんはほっとした表情を見せた。
本当に、ちょっと頰小突いたら起きんじゃないかなって感じ。
「天真が目覚めたら、連絡をください。これ、俺の電話番号です」
宗旦狐はそう言って、メモをほのかさんに渡した。
それから、あたしと宗旦狐はほのかさんを置いて、病院を出る。
あたしは車に戻ってから、宗旦狐に遺書のことを聞いた。
「遺書、読みました?」
宗旦狐は、無言で頷く。
疲れてるのか、その横顔は少しやつれてるように見えた。
「……俺は、ずっと察していながら目を背けてきました。あとは、時間がなんとかしてくれると思っていたんです。でも、天真の時間は、あの頃から進んでなかったんですね」
宗旦狐は深く息をついた。
「今更、何を思ったところで仕方ないことなんでしょうが。ーー俺のこと、軽蔑しましたか?」
と、宗旦狐は諦めたような口調であたしに問いかけてくる。
その口調は、斎玄さんを彷彿とさせた。
「あたしが、あの遺書を読んで、まず思ったことを本音で言っていいですか?」
そう言うと、宗旦狐は少し悩みながらも頷いた。
あたし、容赦なく感想を吐きつける。
「『だから何?』って思いました」
案の定、宗旦狐はきょとんとした顔をした。
「自分の存在意義奪われて、好きだった女奪われて、それで、はい死にますって、夏目漱石のこころのKですか?悲劇の主人公気取りですか?あんな、小さい子が母親に言いつけるみたいなクソ遺書送りつけて、あたしにどうしてほしいんだって話ですよ」
あたしゃてめえのお母さんじゃねえんだよって感じ?
「ーー先生は先生の道を見つけた。誰もそれを責められる人なんていません。だから、軽蔑なんてしませんよ」
だって、先生の人生だもん。
それをどうこう言える人なんて誰もいるはずない。
「それに、先生が過去にさなえさんと同じ部屋で過ごしてたとしても、別にあたしは気にしません。高校生の男女が同じ部屋で何してたんだ?とか、そんな野暮なこと聞かないし、さなえさんのことほんとはどう思ってたのかとかも、ぜんっぜん知りたくありませんから」
うん、ぜんっぜん気になんねえわー。
高校生の男女が一つ屋根の下、夜何してたんだろうとか、ぜんっぜん気になんねえわー
どうせあれだろ?
トランプゲームとかだろ?
二人でババ抜きだろ?
それともあれか、テレビゲームとか?
いや、ぜんっぜん気になんねえんだけどねー!




