うん、それでもいいや
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次の日、あたしは待ち合わせ時間の三十分前に待ち合わせ場所の最寄り駅に着いた。
昼の路地裏は、夜とは違っていかがわしい雰囲気は皆無だった。
みんな、夜のために寝静まってる。
通行人も、まばらだった。
待ち合わせのビル前には、宗旦狐が置いて行った車が停まってる。
その車の近くで、既にほのかさんが立って待ってた。
あたしを見つけるなり、お辞儀をする。
「こんにちは。早いですね」
「家にいても、気になっちゃって。あれからなにか天真さんのこと旦那さんから聞いてますか?」
あたしは首を横に振った。
天真さんの遺書を宗旦狐に送って以降、宗旦狐からの連絡はなかった。
……というか、旦那さんって呼ばれるのむず痒いな。
「でも、命に別状なくてよかったですよね」
ほんと、首を吊った天真さん見た時は、呼吸が止まるくらい怖かったんだから。
「わたし、なかなか眠れなくて、自殺未遂者の心のケアについて調べてたんです」
おお、ほのかさん、なかなか献身的なんだなあ。
「そしたら、自殺未遂者の方が、生きててよかったって思える環境づくりが必要だって書かれてました」
生きててよかった、か。
やっぱりあの親どうにかするしかないなあ。
「わたし、しばらくお店はお休みして、天真さんのそばにいようと思います。邪魔だって言われても、離れてなんかやりません」
ああ、なんて健気なんだろう。
なんか、ちょっと自分のことみたいに嬉しい。
「天真さんのこと、大切に思ってるんですね」
「はい!大切な仕事仲間ですから!」
……仕事、仲間。
……うん、それでもいいや。
それでもいい。
お義姉さん、義弟にお友だちができてすごい嬉しいよ。
うん。
「お待たせしました」
と、宗旦狐がやってくる。
服装が昨日と変わってなかった。
「先生、お疲れさまです。天真さんは、どうですか?」
「まだ目は覚めてません。一人にすると危険だから、なるべく早く戻るようにと言われました」
宗旦狐はそう言って、車の鍵を開ける。
あたしとほのかさんは後部座席に乗り込んだ。
「駐車違反で通報されなくてよかったです」
確かに。
あたしが免許持ってればよかったんだけど、残念ながら持ってないのよね。
車は、市民病院へと走り出した。
「ご主人さん、もしかして昨日からずっと病院で付き添ってたんですか?」
「はい、いつ目覚めるかわからなかったので」
あんまり無理しないでと言いたいけど、言えないのが辛かった。
確か、今日も仕事だったはず。
いや、この緊急事態だし、さすがに休んだか。
「鹿野さん、少しお願いがあるんですが」
と、宗旦狐が申し訳なさそうに口を開く。
「はい!わたしにできることならなんでも!」
「天真を、しばらく見てやっててほしいんです。実家に着替えを取りに行ったりしなければいけないので」
「お安いご用です!お任せください!」
ほのかさんは爆乳に手を当てて自信満々に答えた。