破り捨ててやりたい衝動に駆られた
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読み終わって、あたしは直ぐにでもこの紙くずを破り捨ててやりたい衝動に駆られた。
きっと、これは宗旦狐を家に呼ぶ前日に書いた物だったんだろう。
でなけりゃ、「これから一人になるあなたに知っておいてほしかった」なんてふざけた表現するはずない。
なにが「同情も許しも求めてはいません」だ。
だったら、なんのためにあたしに知ってもらいたかったんだ。
自分のことしか考えていない綾子さん。
家のことしか見えてない斎玄さん。
こんなことになるまで放置してた宗旦狐。
そして、一人で抱え込んで悲劇の主人公ぶって、愚行を正当化しようとする天真さん。
朝倉家、ほんっっとにめんどくさい。
あーもう!
もやもやする!
髪の毛わしゃわしゃとかきむしってると、宗旦狐から電話がかかってきた。
あたしは、迷わずそれに出る。
『なるみさん、寝てましたか』
「いいえ。天真さんはどうですか?」
『市民病院に運ばれました。発見が早かったおかげで、命に別状はないようです』
「ああ、よかったです」
本当によかったあ。
あたしは心の底から安堵した。
『弟が迷惑をかけて、本当にすみませんでした』
宗旦狐は、本当に申し訳なさそうに謝る。
……弟、か。
宗旦狐にとって、やっぱり天真さんは弟なんだな。
『……情けないですね。天真がこれほど追い詰められてるとも知らず、俺はのうのうと自分のために生きてたんですから』
あたしは、今更宗旦狐のことを責める気にはなれなかった。
『全てを捨てたことに後悔はしてません。ただ、兄として弟の気持ちにもっと早く気づいてやることはできたんじゃないかと思わずにはいられないんです』
「それは、今からでも遅くないと思います」
あたしは、天真さんの遺書のことを話した。
「表現と文量からして、今日より前から書いてたんだと思います。写メを送りますから、読んでください」
天真さんは望まないかもしれないけど、きっと、これは朝倉家全員が読むべきだと思う。
『わかりました。お願いします』
今日の昼、路地裏のビルの前でほのかさんも呼んで待ち合わせる約束をして、電話を切った。
それから、天真さんの遺書を写真で撮って宗旦狐に送りつける。
送り終えてから、ほのかさんにも天真さんが助かったことと、待ち合わせについて連絡する。
了解の返事はすぐに来た。
あたしは、息をついてもう一度、天真さんの遺書を見直す。
ほのかさんに遺書を見せるのは、あたしの一存では決めかねたから送らなかった。
あまりにも、朝倉家の腐った部分が書かれすぎてる。
それにしても。
天真さんと斎玄さんの秘密ってなんだ?
綾子さんも、宗旦狐も知らない秘密であり、天真さんと朝倉家を繋ぐ証……。
……だめだわからん。
今日はもう寝よう。
そんで、起きてからまた考えよう。
あたしは遺書を封筒にしまって眠りについた。