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遺書12

遺書12


私は、初めて兄上を憎みました。


きっと兄上は、幼いあなたに出会った日から、私から嫌われることを覚悟をしていたのでしょう。

さなえを捨てることすら、その時に決まっていたのだと思うと、私の中の憎しみは一層増幅するばかりでした。


また、さなえに対しても憤りを感じずにはいられませんでした。

なぜ、私を選んではくれなかったのか。

さなえさえ、私を選んでくれれば、あんな人でなしよりも幸せにする自信があったのに。


いや、それよりも、なぜ婚約が決まったあの時、私は母上に反抗しなかったのか。

なぜ、抱き寄せたあの時、さなえを引き止められなかったのか。


私は何よりも誰よりも、自分自身が許せませんでした。



朝倉家での私は、いつまでも宙ぶらりんのままでした。

母上は私が後を継ぐのを認めようとはしないし、父上は父上で、後継ぎのことはあまり早急に解決すべき問題とは考えていなかったらしく、そのことについて触れることはありませんでした。


それでも、いつか、母上は私を認めてくれると信じていました。

いつか、私を本当の家族として迎え入れてくれるのではないかと。


でも、それは大きな間違いでした。

母上にとって、もはや私も父上も朝倉家さえも、そんなものどうなったって構わない存在となっていたのです。



私は、なんのために、今まで生きてきたのでしょう。

さなえが死んだ時、私も死ねばよかった。



さなえを殺したくせに、平然とあなたと歩ける兄上が憎かった。

私を認めてくれない母上が憎かった。

そして、自分自身が憎かった。



だから私は、兄上を殺して、母上に復讐しようとしたのです。

固執する兄上を私が殺した時、あの憐れな女がどんな顔をするのか見てみたかった。


これが、最初で最後の反抗です。



あなたには、悪いと思っています。

あなたが私と家族になりたいと言ってくれた時、本当に嬉しかった。

さなえには言えなかった「義姉上」という言葉が、あなたには抵抗なく言えたのは、きっと、私もそれを望んでいたからなのでしょう。


しかし、兄上を憎むことしかできない私に、兄上を愛しているあなたと家族になることなんて、どうしてできるのでしょうか。


同情も許しも求めてはいません。

ただ、兄上を喪ってこれから一人になるあなたに知っておいてほしかった。

それだけです。


これから兄上を殺して自殺をするというのに、私の心は不思議なほど穏やかです。

やっと、楽になれる。

そんな気持ちさえします。


どうか、あなたは、私や母上のような気持ちを味わうことなく、幸せに暮らしてください。


さよなら。



朝倉天真

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