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遺書11

遺書11


そんな、表向きは穏やかな日常が過ぎ、兄上の進学話が持ち上がった頃。

やはり、母上は兄上の大学すらも決めるつもりでいました。


しかし兄上は、なにを思ったのか突然、家を出ると言い出したのです。

家もさなえも、なにもかも捨てて、兄上はアルバイトで稼いだ金だけを持って出て行きました。


母上は、もちろん猛反対しました。

泣き叫んで兄上を引き止め、私に兄上に理由を聞けと命じ、さなえや父上にも引き止めろと説得したそうです。


しかし兄上は、


「きちんと学びたいことができた。あとのことは天真に任せます」


それだけを言い残して、去って行ってしまいました。


兄上が家を去って間もなく、私は残されたさなえにわけを聞きました。

兄上のそばにいたさなえであれば、なにか知っていると思ったのです。


「そうちゃん、わたしのこと愛してなかったんだって。でも、しょうがないよね。人の心なんて、誰にもわかんないもん。そうでしょ?」


私が兄上について聞くと、さなえは笑ってこう言いました。

懐かしい口調と笑顔でした。


さなえの言葉に、私はどう答えることもできませんでした。

なにか責められてるような、そんな気がしたのです。

さなえはまた、少し私を責めるように、しかし子どもっぽく口をすぼめながらこう言いました。


「わたしを助けてくれる人は、いつだって天真ちゃんだったよ」


私はそう言われた時、思わずさなえの華奢な身体を抱き締めていました。



ずっと、好きだった。

私を愛人の子としてではなく、天真として見てくれたさなえが、ずっと好きでした。

私が朝倉家の後を継いで、さなえと暮らせればこれ以上ない幸せです。

さなえもきっと、それを望んでくれると、そう思っていました。


しかし、さなえは私を拒絶し、無言で朝倉家を出て行きました。



さなえが自殺したのは、それから一週間後でした。


さなえが死んだことは、朝倉家の弟子だったさなえの親族から伝えられました。

自室にこもり、ドアノブに紐をかけて首を吊って死んだそうです。

葬儀には、朝倉家は来ないでくれと釘を刺されました。

そのため、父上すらさなえの遺体を見ることはできませんでした。


朝倉家は手切り金として、東城家に大金を握らせ、引っ越しをさせました。

それ以来、さなえの親族の弟子も破門となり、東城家とは一切の関わりを断ちました。


今ではさなえの墓の場所すら、朝倉家の中で知っている者はいません。

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