遺書9
遺書9
それからほどなくして、突然、朝倉家で葬儀を行うことになりました。
あなたのおおばあ様の葬儀です。
親戚はーー特に母上はこの葬儀を行うことについて憤慨していました。
しかし、前前代の当主は当時朝倉家の中で一番の権力者でした。
その人の言葉を無視することは、誰にもできません。
断り続ける月川家をなんとか言いくるめて、葬儀を行なったと聞きました。
母上は、月川家は憑き物家の人間だから穢れていると悪態をついていました。
なぜ、前前代の妾なんかの葬儀をうちでやらなければならないのか。
母上は愛人を作られた妻として、そっちの方が気に入らないようでした。
葬儀当日は、決して月川家の人間に顔を見せてはならないと母上に言われ、私は部屋にいました。
兄上も同じく一人で隣の部屋にいました。
しかし、兄上の部屋からは楽しげに笑う子どもの声がするのです。
様子を見に行くと、兄上は幼女と折り紙をして遊んでいました。
その子に見覚えはなかったので、すぐに月川家の人間だとわかりました。
それから私は、迷わず母上の元へ行って、月川家の人間が兄上を誑かしていると告げました。
あなたに謝らなければなりません。
あの日、母上をけしかけたのは、私なのです。
あの時の私は、兄上の信頼が揺らげばいいと、それしか考えていませんでした。
しかし、母上は兄上ではなくあなたに怒りの矛先を向けた。
それでも涙一つ見せなかったあなたの毅然とした態度を見た時、自分もあなたのような人であったならと、そう思わずにはいられませんでした。
兄上も、そう思ったのかもしれません。
あなたに出会ってからの兄上は、少しだけ様子が変わりました。
自分から意見を言うことなどなかった兄上が、突然高校生になったらアルバイトをすると言いだしたのです。
母上は当然、反対しました。
働かなくとも小遣いは充分与えられていたので、働く必要がなかったのです。
しかし、兄上は頑として譲りませんでした。
あんな兄上を見たのは、初めてでした。