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うぜええ
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なるほど、これが見れない顔の男か。
いや、正確には見たくないと思う男の顔だわ。
あたし、背を向けてそう思う。
「やっぱり、なるみさんでしたか。クロエの香りがしたから、まさかとは思いましたが」
宗旦狐、わざわざあたしの目の前に移動してくる。
……そうだ、あたしはこの人のことを忘れたんだった。
なにも気にやむ必要なんてなかった。
この人は、ただの図書館の利用客。
だから、こう言ってやればいい。
「どちら様でしょうか」
いつもの営業スマイル浮かべて、営業ボイスで問いかける。
そう、あたしは今、公務員に準ずる仕事の真っ最中だ。
「ざんねん。顔、引きつってますよ」
……こいつ、すんっげえ腹立つ!!
「そうだ、お昼休みに食事に行きませんか。近くのファミレスくらいしかありませんけど」
「行きません。館内ではお静かに願います」
「司書みたいですね」
「司書なんですっ!」
あ、やべ、苛立ちのあまり大きな声でちゃった。
宗旦狐、口の前で人差し指立てて見せる。
うぜええ。