遺書2
遺書2
兄上は非の打ち所がない、いい子でした。
私を嫌煙する大人たちとは違い、兄上はまるで本当の兄のように私の世話を焼いてくれました。
幼い私にとっては、優しくてわからないことがあればなんでも教えてくれる、理想の兄でした。
私が家に来て数ヶ月が経った頃。
徐々に慣れ親しんでいけるだろうと思っていた、家にやって来る弟子や手伝い、そして母上との溝は、埋まることはありませんでした。
自分のなにがいけないのか。
父上に相談するも、「お前は悪くない」と言うばかりで、それらしい理由は教えてくれませんでした。
私は兄上に相談しました。
幼かった兄上は、こう言いました。
「それは、天真が父上のあいじんの子だからだよ」
どうやら、兄上は弟子や手伝いたちの噂話を聞いていたようでした。
私には当時、愛人の子という意味がよくわかってはいませんでしたが、それはなんだか大罪人であるような気がしました。
ずっと憧れていた、父がいて、母がいて、兄がいる家庭。
私はやはり普通にはなれないのだと泣きました。
そんな私を見て、兄上は一つ提案しました。
それは、私も母上を『母上』と呼べば、母上も私を自分の子のように思ってくれるのではないか、というあまりに子どもらしい提案でした。
(私は成人するまで、母上を弟子や手伝いと同じように『奥さま』と呼んでいたのです。)
当時の私にとっては、妙案のように思えました。
もしかしたら、母上に認めてもらえるかもしれない。
私は一縷の望みをかけ、家族が揃って食卓を囲う時に、思い切って「母上」と声をかけてみました。
すると母上は、
「あんたみたいな子、あたくしの子どもなんかじゃない!!二度とそんなふうに呼ばないで!!」
と、私に平手打ちをして発狂しました。
父上や手伝いが止めて、母上の怒りはなんとか治りましたが、私はこの日、生まれて初めて絶望というものを知りました。