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ええい、開けちゃえ

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後からやって来たほのかさんは、天真さんの姿を見て悲鳴を上げた。


宗旦狐は転がっていた椅子に乗って、天真さんを下ろす。


「……まだ温かい」


「わ、わたし、救急車呼びます!!」


そう言って、ほのかさんが端末で救急車を呼ぶ。

その間、宗旦狐は天真さんを仰向けにして心臓マッサージをしていた。


「天真!!このまま逃げるなんて許さないぞ!!起きろ!!天真っ!!」


あたしは、それを見てふとビルの一階にAEDが設置されていたことを思い出す。


「あたし、AED取ってきます!!」


それだけ言い残して、あたしは走り出した。



持ってきてからは、宗旦狐にAEDを操作してもらいながら、救急車を待った。


結局、救急隊員が到着してからも、天真さんの意識は戻らなかった。


救急隊員の人たちによって、天真さんが運ばれて行く際、あたしはもう一度部屋の中を見渡した。


天真さんがもしかしたら、なにか残してるんじゃないかと思った。


すると案の定、こたつの上に分厚い茶封筒が置いてある。

裏面に置かれていたので、それを表にしてみると、殴り書きみたいな字で『月川なるみ様』と書かれていた。


正直、気味が悪かった。


とりあえずそれを鞄に突っ込んで、天真さんを追う宗旦狐とほのかさんの後を追う。



付添いは、宗旦狐が行くことになった。

それでも、あたしを残すことに後ろ髪引かれてるみたいで、不安そうな顔をあたしに向ける。


「行ってください。あたし、今日は実家に帰りますから」


ここは、平塚に引っ越す前にあたしが住んでた街だ。

平塚よりも勝手がわかる。

駅からそう離れてないし、迷うことはない。


「……すみません。また連絡します」


宗旦狐はそう言って救急車に乗り込んで行った。



さて。

あたしはほのかさんの方を向く。

ほのかさんは、今にも泣きそうな顔で救急車を見送っていた。


「……大丈夫、ですか?」


大丈夫なわけないか。

ほのかさんは救急車が見えなくなった後も通りを見つめてる。


「天真さん、いつもなにも話してくれないんです。わたし、やっぱり頼りないんですかね……」


「それは、違うと思います」


あたしがきっぱりそう言うと、ほのかさんはあたしの方を向いた。


「天真さんは、頼り方を知らないだけなんだと思いますよ。あたしもそうだったから、なんとなくわかります」


あたしも、そうだった。

宗旦狐がずっとそばにいてくれたのに、なかなか頼れなかった。

それは、宗旦狐が頼りないとかそういうことじゃなくて、あたしが頼り方を知らなかったからだ。

ちゃんと、人を信じることができなかったからだ。


「天真さんなら、きっと大丈夫です。ーー今日はもう遅いですから、一度帰りましょう。病院の場所がわかったら連絡するので、ほのかさんの連絡先聞いてもいいですか?」


「はい……お願いします」


そうして、ほのかさんと連絡先を交換して、あたしは実家に向かった。



家に着いた頃には、夜中の11時を過ぎてた。

家族には連絡して帰ることを伝えてたけど、帰るなり、


「なに、もう別居?」


「喧嘩?喧嘩したの??やっぱりねー、姉ちゃん長続きしないと思ってたわー」


「うそー、孫はー?」


母と妹が非常にうるさかった。

全くなんておめでたい人たちだろう。


父はすでに寝てて、愛犬だけが癒してくれた。



宗旦狐の弟が首を吊った。

あたしはそう端的に伝えた。

途端に、からかってた母や妹の顔が渋くなる。


あんまり経緯のこととか話しちゃうと、朝倉家の信用にも関わるから詳しくは言わなかった。

ただ、家の後継ぎ問題で揉めてたらしいということだけ話してその場は収めた。


お風呂に入って、布団に入りながら端末を確認する。


連絡はなかった。


あたしは、宗旦狐に「病院の場所と天真さんの容態がわかったら連絡してください」とだけ送った。


それから、鞄の中から例の茶封筒を引っ張り出す。

宗旦狐に伝えそびれたな。

でも、『月川なるみ様』って書かれてるし、あたし宛てでいいんだよね?

ってことは、あたしが読んでいいんだよね?


……ええい、開けちゃえ。


あたしはびりびりと茶封筒の封を切った。

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