爆乳花魁バーテン
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車は、天真さんが店長を務めている花鳥風月へと向かっていた。
天真さんが行きそうな場所は、そこくらいしか心当たりがない。
ひっそりとした路地裏のビル。
その前には、見知らぬ車が停まっていた。
宗旦狐は、その車の後ろに停める。
「あの車は、朝倉家のですか?」
「いいえ、違うと思います。父は基本的に外車しか乗らないんで」
かなりのぼんぼん野郎だな。
そんなこと思いながら車を下りると、同時に前の車からも人が下りてくる。
あれ、あの人どっかで……。
「あっ、爆乳の花魁バーテンさんだ」
そうだそうだ、天真さんに連れられてここに初めて来た時、乳揺らしながらお酒運んで来てくれた花魁バーテンさん。
顔じゃなくて乳で思い出した。
「なるみさんの知り合いですか?」
「はい、ちょっと。ーーあの、すみませーん」
と、ビルの中に入って行こうとする花魁バーテンさんに声をかける。
「……あー!桜花さんのお義姉さん!ご無沙汰してますー!」
相変わらず元気だなー。
と、花魁バーテンさん、宗旦狐の方を見て目を輝かせた。
「もしかして、ご主人ですかっ?桜花さんのお兄さんのっ??」
「はい、主人です。妻がお世話になりました」
おいおいおいおい。
お前はいつあたしの主人になったんだ。
さらっと嘘つくな。
いや、そんなことより、
「てん……桜花さんは今日、出勤していますか?」
あたしがそう訊ねると、花魁バーテンさんは急に表情を暗くした。
「それが……本当は今日、いつも通り出勤する日なんですけど、今朝桜花さんから急に『今日はお店を休みにして欲しい』って連絡があったんです。お店の女の子たちには、今日は休業するって桜花さんの方からすでに連絡してたみたいで……」
天真さんが休むんじゃなく、お店自体を……?
「桜花さん元気なかったし、なんかあるんじゃないかと思って」
「すみません、あなたは……桜花とはどういうご関係で?」
うん、複雑だよね、自分の弟が女の名前名乗ってるって。
あたしは宗旦狐に同情した。
「ああ、自己紹介してませんでしたよねっ。わたし、花鳥風月のマネージャーをしてる鹿野ほのかって言います。桜花……天真さんとは、大学の同級生でした」
そう言って、ほのかさんは鞄から名刺を取り出してあたしと宗旦狐に手渡す。
……もうちょい早く言ってほしかった。
天真さんのお友だちなんじゃん。
しかも結構偉い人だったし。
今まで気使って桜花桜花って呼んでたの馬鹿みたいじゃない。
宗旦狐もそう思ったらしい。
苦笑を浮かべてる。
「とりあえず、お店行きませんか?」
と、ほのかさんが促す。
あたしと宗旦狐はその言葉に従って、店へと向かった。




