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うちの狐殺そうとした落とし前つけねえとなあ?

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宗旦狐は、朝倉家に連絡をして斎玄さんのことを伝え、朝倉家の車をここまで寄越して欲しいと実家に連絡していた。


その数十分後、


「宗辰!」


と、甲高い声が廊下に響き渡る。

振り返ると、酷く狼狽した様子の綾子さんがいた。

綾子さんは、朝倉家のお手伝いさんらしき女性に支えられながらこっちに向かって来ていた。


「宗辰!どういうことなの!?どうしてあの人が……!」


「奥様、落ち着いてください。お身体に障ります」


宗旦狐はあからさまに顔をしかめていた。

あたしと斎玄さんを送ってくれた運転手の初老男性が、小走りで一足先に宗旦狐の元へ辿り着く。


「若旦那さま、申し訳ありません。どうしてもとお聞きくださらず……」


宗旦狐って、家でも若旦那さまって呼ばれてんだ。


それより運転手さん、相当苦労したんだろうな。

今にも泣きそうな顔してる。


宗旦狐は仕方ないと肩をすくめて、綾子さんに近づいた。

あたしもその後に続く。

しかし、綾子さんの目にはあたしなんか写っていなかった。

まるで、あたしなんかいないかのように宗旦狐と会話を始める。


「どういうことなの!?宗辰、直ぐにあの人を連れ戻してちょうだい!!こんな所にいたら、あの女に殺されるわ!!」


「落ち着いてください。母上、俺はこれから天真を探しに行って参ります。母上は、ここで父上をお願いします」


宗旦狐、綾子さんの肩に両手を置いて子どもに言い聞かせるようになだめる。


「朝倉様、あちらでお待ちください。お茶をお出ししますので」


と、受付で控えていたらしい看護師が数人やって来て綾子さんを囲んだ。


「今すぐあの人に会わせなさい!あの人は、もっとちゃんとした病院で診てもらいます!!」


「父上は、自分の意思でここを選んだんです」


「なんですって!?やっぱり、まだあの女と……!!」


まだ、あの女と……?


「母を、お願いします」


宗旦狐は看護師とお手伝いさんに綾子さんを任せて、運転手とあたしと共に車で朝倉家へと戻った。



「家の車が、一台足りないのです。恐らく、天真さまがお乗りになられたのかと」


運転手さんは車中でそんなことを言っていた。


朝倉家まで送ってもらってから、あたしと宗旦狐は家の前に停めてあった宗旦狐の車に乗り換えて直ぐに出発する。


天真さんがどこにいるのか、大体検討はついてた。


「……あの、先生、聞きたいことがあるんですけど」


あたし、思い切ってさっきの綾子さんの台詞について、運転席の宗旦狐に問いかけてみることにした。


「もし、違ってたらごめんなさい。綾子さんが、松永さんのこと嫌ってるのって、もしかして、松永さんが斎玄さんの愛人だったから、ですか……?」


松永さんのあの、少し切れ長な目。

雰囲気も、どことなく桜花さんの時の天真さんと似てた。


それに、斎玄さんには医者を志してた過去があって、松永さんは現在闇医者。

これは、なんらかの接点、あるでしょう。



宗旦狐は無言で頷いた。


「俺が松永さんに会ったのは、まだほんの子どもの頃でした。さすがにまだ、母の留守中に遊びに来ていた人が、父の愛人だとは思っていませんでした。俺も天真も、親戚の叔母程度に思っていたんです」


うわあ、自分の愛人を家に呼んで息子に会わせるなんて、純真無垢な子どもになんてことを。


「いつの頃からか、松永さんはうちには来なくなりました。多分、母上が知って家の出入りをやめさせたんだと思います。天真はよく懐いていたのですが、『母上が悲しむから、松おばさんの話はもうしない』とそれ以来、記憶から抹消したかのように松永さんの話はしなくなりました」


「天真さんは、松永さんが母親だと知らないんですか?」


「わかりません。俺は、天真が朝倉家に来る前、どこでどうやって過ごしてたのか一切知らないんです。天真は話たがらなかったし、父上も絶対に話しませんでした」


ふーん?

それはちょっと気になるな。


「本人シバいて吐かせるしかないですね」


そうそう、それに、うちの狐殺そうとした落とし前つけねえとなあ?

あの野郎、絶対許さん。


「……なるみさん、本当に、ほんっとうにお願いですから、なにもしないでくださいね」


「しませんよ。……今は」


そう、今はね。

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