……あの、それって、いけないこと、ですよね?
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宗旦狐が電話をかけてる間、あたしは灯りを探した。
本当に、なにも見えない。
でも、残念ながら懐中電灯なんてものはなく、仕方なく端末のライトで視界を確保した。
斎玄さんは額に玉のような汗を浮かべて、苦しそうに息をしてる。
「……松永には……」
と、斎玄さんが口を開いた。
「松永には……なにも……言うな」
どういうこと?
それを聞く間もなく、斎玄さんは意識を失った。
「斎玄さん!しっかりしてください!」
ああ、どうしよう!
反応してくれない。
宗旦狐は、斎玄さんが意識を失ったことを電話口で伝えてる。
「なるみさん、そのまま呼びかけてください」
「は、はい。ーー斎玄さん、聞こえますか!斎玄さん!」
それから約五分後、松永さんという人はやってきた。
宗旦狐が電話で伝えてた通り、松永さんと思わしき中年の女性は、担架を抱えて家の裏口からやって来る。
斎玄さんを見た松永さんは、目を見張らせていた。
「一体なにがあったの!?ーーいえ、それより宗辰くん、お父さんを担架に乗せるから、運ぶのを手伝って」
「わかりました」
そうして、斎玄さんは松永さんが運転してきたワンボックスカーへ運ばれ、三列目のシートに寝かせられた。
あたしと宗旦狐もそれに乗って、朝倉家を出た。
松永さんは運転しながら、誰かに連絡を取ってた。
意識レベルとか、なんとか、専門的な用語使って指示を出す。
指示を終えると、
「宗辰くん、なにがあったの?なんで朝倉くんがこんなことに?誰がやったの?」
と、助手席の宗旦狐を質問責めにした。
しかし、宗旦狐は「わかりません」と答えるばかりで、一切天真さんのことを話そうとはしない。
「えっと、松永さん、でしたっけ」
あたし、堪らず後部座席から声をかける。
いい加減、どなたなのかお聞きしたいのですが。
さっきの指示を聞く限り、医療関係のお人だってことはわかった。
すると、宗旦狐が口を開く。
「松永さん、この子は月川なるみさんで、俺の彼女です」
「宗辰くんが彼女を……大きくなったわねえ」
感慨深そうにこう言う松永さん。
もう、後ろにナイフ刺さった人を乗せてる人の台詞じゃない。
宗旦狐は黙っていた。
父親が自分を庇って目の前で刺されたんだから、無理もないだろうけど、なんだか松永さんに対する態度とか口調がそっけないような。
「松永玲華です。朝倉くんの古い友人で、闇医者やってるの」
「やみいしゃ?」
「無免許で医療行為してるってこと」
……あの、それって、いけないこと、ですよね?
許されるのって、漫画の世界だけですよね?
「朝倉くんが闇医者のわたしをわざわざ頼ったってことは、警察沙汰にしたくないからなんでしょうね。だとすると、刺したのは身内か、それとも暴力団関係者かしら」
探るような目線を向けられた宗旦狐は、やはり無言を貫き通した。