狙いは監禁?
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「宗辰は、今日仕事なんですか」
と、斎玄さんが世間話でもするような口調で聞いてくる。
……え?
「宗辰さんは仕事ですけど……えっと、あたしと二人で話すために、仕事帰りの宗辰さんを実家に呼んだのは斎玄さんじゃないんですか?」
あたしが聞くと、斎玄さんは眉をひそめた。
「いいえ、私は宗辰の連絡先を知りませんから」
あら、そしたら、綾子さんか天真さんが呼んだのかな?
てっきり斎玄さんが図ったのかと思ってた。
「今日、綾子は夕方から病院の予約が入ってるはず。……だとすると、天真が……?」
斎玄さんの表情は、徐々に深刻そうなものになっていく。
いや、いくら天真さんが宗旦狐のことを恨んでるかもしれないからって、弟には変わりないんだから、そんな深刻な顔しなくてもいいでしょうに。
「すみませんが、今日はこれで失礼します。ーーお釣りは結構です」
斎玄さんはそう言って、財布から一万円札を出す。
こいつら親子だわ。
なんでコーヒーとミルクティー一杯ずつで一万円必要だと思ってんの?
馬鹿なの?
いや、そんなことより、
「お帰りになられるんですか?」
「ええ、あまりいい予感がしないので」
「あたしも、連れて行ってくれませんか」
なんか、あたしまで心配になってきた。
それに、この一万円のお釣りもらうの忍びないし。
「……思い過ごしかもしれませんよ?」
「大丈夫です。宗辰さんと一緒に帰ります」
「わかりました。今、運転手を呼びますので、少し待っていてください」
そう言って、斎玄さんは店の外に出て行った。
車は、五分も待たずにやって来た。
その車に乗せてもらい、朝倉家を目指す。
「……馬鹿なことを考えてなければいいが」
と、斎玄さんは相変わらず表情を曇らせてる。
「天真さん、宗辰さんのことそんなに恨んでたんですか?宗辰さんからは、関西に引っ越した後も天真さんとは連絡を取り合ってたって聞いたことありますけど」
「はい。ですが、それは恐らく綾子に命じられていたからだと思います。あれは、綾子から言われたことであればなんでも従いますから」
「……マインドコントロールされてるってことですか」
確かに、誘拐の時も天真さんは綾子さんに遣わされてたようだった。
でも、なんで自分のことを「愛人の子」とか言う母親の言うことなんて聞くんだろう。
「手伝いの話によると、あなたを誘拐した日、天真は綾子に呼び出され、なにかを吹き込まれていたようなのです。それから、どうも天真の様子がおかしい。仕事には行っているようなのですが、日中は部屋からほとんど出てきません」
うーん。
やっぱり、宗旦狐の監禁を命じられたとか?
でも、宗旦狐の意思がしっかりしてる内は、実家に監禁ってのは難しいんじゃないかな。
「とにかく、急いでくれ」
斎玄さんは、運転手に声をかける。
運転手は短く返事をして、車を実家へと向かわせた。