複雑そうなご様子
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斎玄さんは運転手に「また連絡する」とひとこと断って車を降りた。
普段着さえも和装……意識高いわ。
「そこのカフェでお茶でもいかがですか」
「あ、はい」
宗旦狐に似た人懐っこい笑みを浮かべ、慣れたように紳士的にエスコートする。
カフェの扉を開けるや、「どうぞ」とあたしを先に入れ、店員に席に案内されるや上座の席を引いてあたしを座らせた。
……なんか……うん……さすが、愛人つくるだけあるなって思ってしまう。
こうやって女の人たち落としてきたんだろうな。
「なにを飲まれますか」
と、メニューを渡される。
なんか、変に緊張しちゃって文字がうまく読めない。
「ミルクティーをホットで」
「私はコーヒーを」
店員が去ると、斎玄さんは小さく息をついた。
それから、視線を下げて口を開く。
「先日は、うちの者が失礼を致しまして、本当に申し訳ありませんでした」
予想通りの切り出し方で、ちょっと緊張がほぐれた。
いきなり、うちの宗辰と別れてくれって言われたらどうしようかと思った。
「いえ……よく、あたしがあそこを通るってわかりましたね。また、探偵ですか」
「……数々のご無礼をお許しください。一度、あなたと二人でお話がしたいと思っていました」
……それで宗旦狐をわざわざ実家に呼び出して、あたしが一人になる時を狙ったのかな。
じゃあ、今宗旦狐は綾子さんと天真さんといるってこと?
ちょっと、まずいんじゃないのか?
監禁されてないかな。
「今は、実家を離れているそうですね」
あたしの心配をよそに、斎玄さんは話を進める。
「三日前から、せんせ……宗辰さんと同棲をさせて頂いてます」
「あれは、迷惑などをかけてはいませんか」
「いいえ、むしろあたしがかけてるほどです」
そこまで話すと、タイミングを見計らったかのようにコーヒーとミルクティーが運ばれてきた。
コーヒーと紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。
あたしは、思い切ってコーヒーを口にしてる斎玄さんに聞いてみた。
「斎玄さんは、あたしと宗辰さんが一緒にいることをどうお思いですか」
斎玄さんは、複雑そうな笑みを浮かべた。
「そうですね。朝倉家の当主としては、あまり喜ばしいとは思えません。しかし父としては、あれに想う女性ができたことがとても嬉しいのです」
あたしは他人事のように「複雑ですね」と返答した。
斎玄さんは素直に「はい、とても」と答えた。