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三人称

371


朝倉天真:今日の夕方頃、時間ありますか。直接話したいことがあります。


朝倉宗辰:三時に授業が終わるから、その後であれば。


朝倉天真:母上が四時から外出するので、時間を見てこちらに来てもらえますか。


朝倉宗辰:わかった。



終業後、宗辰は昼休みに天真としたやりとりを思い出しながら、車を実家へ向かわせていた。


正直、天真の方から連絡が来るとは思っていなかった。

こちらは、二度と朝倉家の敷地に足を踏み入れるなと言われた身である。

それなのに、あちらから朝倉家に呼び出すとは、一体どういう風の吹き回しだろう。


ーー顔も見たくないだろうに。


宗辰はため息をついた。


天真にとって、自分は人殺しだ。

それも、幼馴染であり義理の姉になるはずだったさなえを殺した。

軽蔑しないはずなどないだろう。


宗辰はそう思っていた。


しかし、天真は宗辰が関西へ行って戻って来てからも、変わらない態度で宗辰を兄として接してきた。

宗辰にとってはありがたかったが、その真意は測りかねた。


正直なところ、宗辰はずっと天真とどう接すればいいのか迷っていた。

幼馴染を殺し、家を押しつけ捨てた人間が、何事もなかったかのように兄として接するには無理がある。


だが、天真は弟に変わりなかった。

愛人の子だろうとなんだろうと、天真は宗辰の弟なのだ。


ならば、天真の本心はわからずとも、自分は兄として接するべきなのだろう。


宗辰は思い至って、自分にそう言い聞かせた。



塾から実家までは車で約一時間かかる。

綾子と鉢合わせないよう、途中遠回りをしながら向かった。


もし、綾子が一瞬でも宗辰を見かけたなら、きっとすがりついて離さないだろう。

そんなことになってしまったら、宗辰もさすがに振り払える自信がなかった。

宗辰が病弱だった時、誰よりもそばで献身的に看病をしていてくれたのは綾子である。

どんなにめちゃくちゃなことをしたとしても、やはり綾子も母なのであった。


ーーなるみさんを思えば、母上に仲を認めてもらうことが一番なんだが……まあ、無理だろうな。

まず、話すら聞いてもらえないだろう。



道中、宗辰はなるべく憂鬱な気持ちにならないよう、ラジオを流しつつなるみのことを考えた。


ーーなるみさんは、今頃夕飯の買い物をしてる頃だろうか。

今日の夕飯はなんだろう。



朝倉家に着くと、宗辰は家の前に車を停めて降りた。


「カアッ」


という突然の鳴き声につられて、目線を上げた。

二本の電線の間に、カラスがとまっている。

その背景を、赤く染まった空が彩っていた。


その時、ふと宗辰の頭に『逢魔時』という言葉が浮かんだ。


元来、妖怪や化け物の類は、境界が曖昧な場所や時間に現れるものとされている。

だから、昼と夜の境界が薄くなる時間はそうしたものたちに出会うと言われているのだと、柳原から聞いたことがあった。


「兄上」


と、背後から声をかけられた。

振り返ると、玄関の前で女が立っている。


その姿を見た瞬間、宗辰の心臓が大きく脈打った。


ーーさなえ?


「どうかされましたか」


と、さなえーー女装姿の天真が、薄く笑みを浮かべながら近寄ってきた。


見間違いだとわかっても、宗辰の心臓はなおも騒がしく脈を打つ。


「……いや、なんでもないよ。ーー今夜は仕事?」


「はい。ーー外は冷えますから、どうぞ」


宗辰は、無言で頷いて家の中へ入って行った。


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