このあと、めっちゃくすぐられた
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……背中が温い。
というか……近い。
距離が、ゼロなんですが。
壁に追いやられてて、宗旦狐の体温が伝わってくる。
「あ、あの、狭い、ですか?」
「いいえ。むしろ、狭い方がいいです」
「寝づらくないですか?」
「もう熟睡することは諦めたんで」
……なぜ諦めた?
「なるみさん、結局俺のこと名前で呼んでくれないんですね」
宗旦狐はわざとあたしの耳元で囁くようにこう言う。
と、鳥肌が立つ……!
「考えたんですけど、日頃から先生のこと名前で呼んでたら、癖で大学でも名前で呼んじゃいそうじゃないですか?……って、息を耳に吹きかけないでください!」
「だって、なるみさんがこっち向いてくれないから。ーーじゃあ、いつ呼んでくれるんですか?」
自分から好きな呼び方でいいって言ったものの、やっぱり呼ばれたいらしい。
あたし、宗旦狐の方に身体を向ける。
「結婚、してから?」
「結婚したらすぐ子どもができるので、きっと名前よりもパパって呼ばれる方が多くなるんでしょうね」
「なんで結婚したらすぐ子どもができるって決定事項なんですか!ーーでもあたし、仮に先生と結婚して子ども産んだとしても、名前で呼び合いたい派です」
「大賛成です。あと、仮にじゃないですから。絶対ですから」
「ふふ、はいはい」
幸せって、このことを言うんだろうか。
あたし、調子に乗って宗旦狐の胸板に顔を寄せる。
数日前までは抱き枕での練習でも恥ずかしかったけど、なんかもう、あの長いちゅーしたらちょっとだけ吹っ切れた。
あったかい。
「……なるみさん」
「あ、嫌でした?」
「いえ、むしろ逆なんですけど。とりあえず、キスしてもいいですか?」
とりあえずキスって意味わかんないんだが。
それに、
「それだけに止まれるんですか?」
「……自信がないのでやめておきます」
「ふふふふ、これを生殺しっていうんですよね」
「なるみさんって結構Sですよね」
「普段先生に翻弄されてるから、なんか楽しくって」
「あんまり刺激したら問答無用で襲うので覚悟してくださいね」
やっべ、声がガチだ。
あたし、宗旦狐の胸板からそっと顔を離す。
「ーーところで、明日はどうしましょうか」
あたしは冬休みだから特に予定がないんだけど、 宗旦狐はどうなんだろう。
「すみません、塾の冬期講習があって、年末は休みが取れそうにないんです」
あー、そうか。
懐かしいなー。
あたしも個人だったけど、高校生の頃は冬期講習行ってたわ。
先生たちって休みなかったんだな。
「一日二コマしかないので、夕方頃には帰って来られるはずなんですけど」
「わかりました。じゃあ、お夕飯作って待ってますね」
なんか、ほんとに夫婦疑似体験って感じだなあ。
この際だから、もう少し料理のレパートリー増やそうかな。
そうだ、年末の大掃除も。
年末……もう年末かあ。
「朝倉家には、いつ、行きますか……?」
できることなら二度と行きたくないんだけど、行かなきゃどうしようもないもんね。
宗旦狐も同じようなこと思ってるのか、眉間にしわを寄せてる。
「縁を切るも切らないも、できれば今年中にカタをつけたいんですけどね」
気持ちはわかるけど、そう簡単にいくとも思えない。
「まあ、来年もありますから」
「なるみさん、俺、そんなに我慢強くありませんよ」
「大丈夫、先生はできる子です」
うん、やればできる子。
宗旦狐は顔を引きつらせて、
「意地悪する悪い子にはくすぐりの刑です」
と、両手をあたしの両脇に潜り込ませる。
「ひっ!ちょっ!どこ触ってんですか!!やめっ……!やめて!!」
「そういえば、朝に後でキスさせてくれるって言ってましたよね?やっぱりさせてください」
「さっ、さっきしたじゃないですか!!ちょっとほんと!!くすぐったいから!やめっ……んー!!」
このあと、めっちゃくすぐられた。