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大好き、なんです

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お風呂から出て、寝巻きに着替える。

今日は大丈夫。

牛の耳も尻尾もない。

普通の寝巻き。

というより、パジャマ。


同棲決まってから母に「パジャマも下着も新しいの買いなさいよ!」とか口うるさく言われて、渋々低価格のファッションセンターで買ったんだよね。


しかも、母の検閲が入ったパジャマと下着。

さすがにぺらっぺらの布切れみたいな下着とか真っ赤な生地に黒レースの下着は遠慮したけど、パジャマは無難でよかった。



髪の毛乾かして、歯を磨いてリビングに向かう。

つけっ放しのテレビには、バラエティ番組が映し出されてた。

そのテレビの前のソファには、肘掛に肘を掛けてうたた寝してる宗旦狐がいる。


「せんせー、お待たせしました、空きましたよ」


と、顔を覗いてみる。

反応はなかった。


すーすーと子どもみたいな純粋そうな顔で寝息を立ててる。


うん、かわええ。


そんなこと思ってると、宗旦狐は眉を寄せて苦しそうな顔をした。


「……な、え」


……ん?寝言言ってる?

あたし、宗旦狐の口に耳を寄せる。



「……さな、え……ごめん……」



ーー時が、止まったかのように思えた。


全てが無になった。

ただ、心が痛かった。

まるで、ガラスの破片で刺されたような、鋭い痛み。

そのガラスの破片は、宗旦狐がさなえさんと家を捨てて、あたしを選んだことに対して後悔してるのかもしれないと思うと、ずぶずぶのめり込んだ。



男としての自信がなくなったのは、本当に朝倉家のことだけが要因なんだろうか。

あたしが宗旦狐に近づけば近づくほど、さなえさんの影は濃くなる。

宗旦狐はそれを打ち消すために、あたしとの証を欲しがってるんじゃなかろうか。


もしそうなら、あたしは、今までの宗旦狐が付き合ってきた彼女たちと変わらない。

さなえさんが望んだように、誰かを愛そうとした宗旦狐に抱かれたであろう、彼女たちと。



ーーやだ。

そんなの、やだ。


あたしだけは、特別でいたい。

ちゃんと、あたしだけを見てて欲しい。

あたしだけを、好きでいて欲しい。



あたしは、眠る宗旦狐に顔を寄せる。

そして、宗旦狐の唇に唇を重ねるのだった。



唇を離すと、宗旦狐とばっちり目が合った。

どうしていいかわからず、目をそらす。


「なるみさん?……泣いてるんですか?」



昔、恋愛小説を読んでは、人はどうして心を繋ぎとめておけるものを欲するんだろうと、不思議に思ってた。

心なんて、不確かで、移ろいやすくて、脆いものなのに、なんでそんなものを繋ぎとめられるものが存在すると思うのか。


今なら、わかる気がする。

心は不確かだし移ろいやすいし脆い。

しかも、そんなものを繋ぎとめておけるものなんてものもない。

それでも、求めずにはいられないのだ。

証を。

この人を好きだっていう、証を。


「宗辰さんが好き。大好き、なんです」


どうしようもないくらい。

頭がおかしくなっちまったんじゃないかって思うくらい、あたしはこの人がーー宗辰さんが好きなんだ。


だからーー


「あたしのことだけ、見ててくれませんか?」


宗旦狐は、一瞬目を丸くすると、また辛そうな顔をしてあたしの後ろ首に手を回した。


「誰よりも、あなただけを愛してます」


そう言って、顔を引き寄せ、そのまま深いキスを落とした。

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