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……いや、だから何を

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「なるみさん。俺、結構余裕ぶってますけど、あなたのことになると、常に心中穏やかではないです。自分のゼミ生が、卒論提出締め切り五分前になってもやって来ないような心持ちです」


「「なにそれ超怖い」」


大旦那と柳原先生が震え上がってらっしゃる。


元学生のあたしからしても、その怖さはなんとなくわかる。

卒論提出締め切り時間は、一分でも過ぎたらアウトだ。

前に印刷機の不調とかで、一分遅刻した先輩がいたらしいんだけど、教務課の受付の前でこの世の終わりを迎えたみたいに泣き叫んでたとか。


先生たちにとっても、卒論提出締め切り日は怖い日なんだな。



……えっと、あたし、宗旦狐にその日と同じ思いさせてんの?


あたし、宗旦狐の片手から逃れて胸を張る。


「大丈夫です。あたし、卒業制作締め切り五時間前に提出できたんで」


「そういうことじゃない」


ついに宗旦狐が敬語使わなくなった。

えっ、おこ?おこなの?


「宗辰さんは不安になってるんだと思います。なるみさんに捨てられるんじゃないかって」


と、巧さんが宗旦狐の気持ちを代弁してくれる。


「僕も詳しくは聞いてないけど、朝倉家のこととか、もろもろ騒動あったんでしょ。それに巻き込んじゃったこともあって、ちょっと男として自信なくなってんだと思うよ、こいつ」


宗旦狐はあたしから顔を逸らしてる。

耳は真っ赤になってた。


もしかして、母親が同棲を提案した時、真っ先に賛成したり、最近スキンシップ多めだったり、会計の時も全部済ませたりしてたのって、全部男としての自信消失のせい?

朝倉家の問題を払拭するくらいいいとこ見せて、あたしに好きでいてもらいたいとかそういう心理からの行動だったの?


「情けない、ですよね」


と、宗旦狐はしょんぼりと肩を落とす。


「……馬鹿ですね」


まったくこの人は。

ほんと、馬鹿。


「あたしは朝倉家のことで、先生を嫌いになったりなんてしません。……ちゃんと、好きですよ」


あーもー!!

恥ずかしい!!

なんでみんな見てるとこで公開告白してんの、あたし!!


あたしは両手で顔を隠した。

みんなの視線が怖い。


「朝倉、今はそのへんで勘弁してやれ」


と、柳原先生が助け船を出してくれる。


「そうですね。今は」


……今は?

あたしが顔上げると、宗旦狐はさっきまでしょんぼりしてたのに、なんかちょっと嬉しそうな顔してた。


「わかりやす」


「お兄ちゃん、意外とそういうとこあるんだよね」


花村と美月ちゃんが背後でくすくす笑う。


やっばい、あたし全然ついていけてない。

どうしよう。


「そろそろケーキ食べましょうか」


と、宗旦狐は呆然としてるあたしの頭を撫でて台所に向かう。


眉を潜めて大旦那に視線を送ると、


「頑張れ」


とだけ言われた。


……いや、だから何を。

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