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呪いが解けた時

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自動販売機で宗旦狐が買ってくれたあったかいお茶を車の中で飲む。

確かにちょっと寒かったから、冷えた身体にしみた。


あー、親に連絡してないや。


ふいに、そう思ってバッグから端末を取り出そうとする。

と、手に紙の感触があった。

あれ、紙類の物なんて入れてたっけ。

そう思って、あたしは鞄を覗いた。


「先生、先生の好きなお花、なんですか?」


「どうしたんですか、突然」


「いいから、なにが好きですか?」


「んー、チューリップ、ですかね。赤いチューリップ」


あたし、ふふって笑って鞄から赤い折り紙でできたチューリップを取り出した。


「はい、赤いチューリップです」


宗旦狐は、目を丸くしてそれを受け取った。


「先生のお部屋で見つけました。まさか、まだとってあったなんて思いもしなかったです。きっと、天真さんが鞄に入れておいてくれたんですね」


天真さん、実はそんな悪い人じゃないんじゃないのかなあ。

そう思ってしまうあたしは、お人好しなんだろうか。


宗旦狐は、それを大事そうに握って「ありがとうございます」と照れたよう笑った。


「あの日、俺はあなたに救われたんだと思います。あなたのおかげで、自分の意思を抱くことができました。本当に、なるみさんには感謝してます」


「そんな、大袈裟な」


面と向かってそんなこと言われると照れる。

あたしは、照れ隠しにお茶を一口飲んだ。


「あの日からずっと、大人になってもう一度あなたに出会えたら、伝えようと思ってたことがあるんです」


宗旦狐の真剣な声を聞いて、思わず宗旦狐の顔を見た。

顔も、いつになく真剣だった。


確か、宗旦狐があたしに伝えたいことがあるらしいって、巧さんも言ってた。

あたしは、黙って宗旦狐の言葉を待つ。



「ーーあなたは、穢れてなんていません」



宗旦狐は、あたしの手を握った。


「あなたは、心の綺麗な人です。人のために行動ができて、人を想って泣くこともできる。その反面、傷つきやすくて繊細で、自分の存在を否定されることが怖くて人と関わりたがらない。だから、自分を卑下して傷つくことから逃げているんでしょう。もう、逃げなくていいんです。あなたは穢れてなんていません。俺が、保証します」


そう言って、宗旦狐は笑いながらあたしの頰を撫でた。


「あなたはもう、誰を好きになっても、誰かを頼ってもいいんです。誰もあなたを穢れてるから嫌いになんて、なったりしませんから」



ーーなにかが……あたしの心の中のなにかが、氷みたいに溶けたような気がした。


ずっと、あの日から、心の奥底にあった、冷たくて刺々しいなにかが、一瞬にして。


そして、それは、涙になった。

ぽたぽたと、目を閉じなくても次々に落ちていく。


「俺のこと、信用できませんか?」


宗旦狐は、悪戯っぽく笑った。

あたしは、つられて笑って首を横に振る。


「ありがとう。先生、大好き」


この人を、好きになれてよかった。

心から、そう思う。


あたしは、穢れてなかったんだ。

なら、きっと、ここにいてもいいんだよね。

この人を、好きでいてもいいんだよね。

ああ、嬉しくて、涙が止まらないや。



宗旦狐は優しく微笑みながら、あたしの額にキスをした。


「よく泣く子どもは、こっちの方が似合いますね」


「こ、子どもじゃないです!」


ごしごしと服の袖で涙を拭う。

今日、アイメイクしてなくてよかった。

怠惰な女でよかった。


「じゃあステップアップしちゃいます?」


「しちゃいません!ほら、早く帰らないと!」


「はいはい」


宗旦狐は、笑顔で折り紙のチューリップを車のドリンクホルダーに立てた。

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