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リア充をしよう

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「遠回りして帰りましょうか」


車を走らせて数分後、宗旦狐はふいにそんなことを言った。

どうせ、親には叱られるんだろうから、何時に帰っても同じだ。

あたしは頷いた。


車内のデジタル時計を確認する。

二十時、か。

意外とそんなに経ってないんだな。

そうだなー、せっかくなら、リア充らしく夜景でも見たい。


「湘南平に行きたいです」


「湘南平?」


「はい。平塚の山の上にある公園なんですけど。前に家族と行った時、展望台から見える景色が綺麗だったんで」


湘南平とは、神奈川の景勝五十選にも選ばれてる場所のことだ。

高麗山公園という大きな公園があって、そこのレストハウス展望台から見える景色は絶景だった。

ただ、本当に山頂にあるから、そこに行くまでが徒歩では辛い。

車ならちょうどいいし、あたしの家も平塚だし、わざわざ道を逸れるよりはそっちの方がいいんじゃないかと思った。


「それじゃあ、そこに行きましょう」


宗旦狐はナビで湘南平を設定して、車を向かわせた。



湘南平に着いた頃には、痺れてた足はすっかり治ってた。

捻った痛みも、不思議と感じない。


高麗山公園の駐車場に車を停めて、レストハウス展望台へ向かう。

展望台にはほんの数組のカップルがいるだけで、辺りは静かだった。


「気をつけてくださいね」


と、階段を上る時、あたしの前を行く宗旦狐が手を貸してくれる。

あたしはおずおずとそれを握って、一番上まで上った。


「綺麗ですね」


展望台から見える景色を眺めて、宗旦狐は笑いながらそう言った。


眼下には、灯りに照らされた高麗山公園が広がり、向かい側には赤いテレビ塔が建っている。

そのさらに向こう側には、星の海のように輝く街が見えた。


設置されてる望遠鏡を覗きながら、宗旦狐が「あっちの方面は逗子で、あっちの方面は箱根」と、説明してくれる。

あたしには、光がない真っ暗なところが相模湾ってことくらいしかわからなかった。


「お昼とかは天気がいいと、富士山や江ノ島とかスカイツリーまで見えるそうです。今度はお昼にも来ましょうね」


レストハウス展望台は、二十一時半には閉まってしまう。

あたしと宗旦狐は、早々に階段を下りた。


「なるみさん、あそこのテレビ塔は上れないんですか?」


宗旦狐はあたしに返事をしないで、テレビ塔を指差しながら無邪気に聞いてくる。


「あのテレビ塔は、いつでも空いてたはずです。行ってみましょうか」


と、あたしたちは次にテレビ塔に向かった。


赤く塗装された階段を、上れる所まで上ると、白いフェンスで囲われた空間に出る。

フェンスには南京錠が無数に掛けられていて、レストハウス展望台より視界は良くなかった。


「江ノ島にもありますよね、カップルの名前を南京錠に書いてそれをフェンスに掛けて鍵を捨てるってやつ。ここもそんな感じらしいです」


「南京錠、持ってくれば良かったですね」


宗旦狐は薄く笑いながら、カップルが掛けたであろう南京錠の名前を眺める。


「でも、ここのは数年に一回、塗装工事とかで全部切断されちゃうから、ここに施錠したカップルはいつか別れるって聞いたことありますよ」


あたしは個人的に、工事の際、この無数の南京錠を全て切断するであろう作業員さんの気持ちがとても知りたい。


「でも、数年間は結ばれていられるんですよね」


宗旦狐は、ぼそりと低い声で呟くようにこう言った。

それから、何事もなかったかのように笑顔で自分の腕をさする。


「寒いですね。そろそろ下りましょうか」


「あ、はい」


あたしは、不思議に思いつつ言われるがままテレビ塔から下りた。

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