きっと、これで終わりなんだろう
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静かな車中。
宗旦狐の横顔は酷く思いつめてる。
あたしは、不安だった。
もしかしたら、罪の意識から、宗旦狐はあたしから離れるかもしれない。
だから、嘘をついた。
「先生。あの、あたし、大丈夫ですから。特に、なにも嫌なこととかされてないし。連れ去られた時はちょっと驚きましたけど、でもーー」
「俺は、あなたのそういうところが嫌いです」
……え?
きら、い?
宗旦狐は、車を道の横に停めた。
住宅街のど真ん中。
道を歩く人はどこにもいない。
宗旦狐は、あたしの両肩を思いっきり掴んだ。
その痛みに、思わず顔を歪める。
「どうして、もっと早くに俺を頼ってくれなかったんですか。そんなに俺が信用できませんか」
宗旦狐は、泣いていた。
流れる涙が、月明かりに照らされてる。
あたしは、もう、嘘をつくのはやめた。
「……できません、でした」
宗旦狐は、あたしの言葉に目を見開く。
「天真さんから、先生は穢れたあたしなんかと、家族になる気はないと言われました。穢れたあたしは弄ばれてるだけだと。確かに天真さんの言うとおり、あたしは穢れてるから否定なんてできなかった。先生のことも信用できなくて、だから、なにも話せなかったんです」
宗旦狐は、あたしの両肩に手を置いたまま、俯いてこちらを見ようとはしなかった。
「でも、今日、巧さんから聞きました。先生、お葬式の日に出会った四、五歳の女の子とした約束を果たすために、親が決めた婚約を破棄してまでずっと探してたんですね。あたしも、四歳の頃におおばあ様のお葬式の日に会った男の子と、大人になったら会おうって約束してたんです。……あの男の子、先生だったんですね。そうまでして、あたしを選んでくれた先生を、あたしは信じられなかった。……あたし、最低でした。本当に……ごめんなさいっ……」
宗旦狐の、『嫌いです』と言う言葉が耳から離れなかった。
きっとこれで、終わりなんだろう。
そう思うと、とめどなく涙が溢れてきた。
わかってる。
全部、宗旦狐を信じられなかった、自分のせいだ。
頭で理解してても、心は追いつかなかった。