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あたしにだって、意地がある

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「そして、葬式の日、あなたがやってきた。厚顔無恥って、このことを言うんだと思ったわ。妾の葬式予算をすべてうちに払わせておきながら、子どもを中へ入れてうちの宗辰と遊ばせていたんだもの」


とうとう、母上が本性出してきた。

あたしは毅然とした態度で発言する。


「それは違います。あの日、あたしは何も知らないで自分で進入しました。あたしの親戚は関係ありません」


「それはどうかしら。朝倉家の財産目当てで、もしかしたら月川家の誰かがわざとあなたを進入させて、宗辰に会わせたのかもしれないじゃない」


……そうか。

あの日、月川家に恥をかかせたと怒っていた親戚は、このことを言ってたんだ。

あたしが、朝倉家長男の宗旦狐と仲良くなることで、月川家は朝倉家を乗っ取れるんじゃないかと、そう思われたってことだもんね。

まあ、現に今、宗旦狐とそういう関係になってるわけだから、なんも言えないんだけど。


でも、普通の人間だったら、たかだか四歳くらいの子どもが家に進入したくらいでそんなこと考えないだろうに。

あの時の平手打ちには、なんかもっと、怨みみたいなもんが篭ってたように思える。


「もしかしたら、北方さんかもしれないわね。あの人、お葬式の後、『俺は月川家の親戚だが、血縁関係はないから弟子にしてほしい』なんて言い出してうちに来たかと思えば、うちの茶碗を持ち出して質屋に売ってたのよ」


……あんっの大馬鹿親父!!

月川家の最大の恥だわ!!


凄まじく不本意だけど、あたしの実父がしたことなわけだし、謝らざるを得ない。


「……父が、申し訳ありませんでした」


「離婚、されたんですってね。ーー結局、安い茶碗だったし、大ごとにはしたくなかったから、破門って形でうちは北方さんとはそれっきりよ」


そう言って、母上は湯のみを手にして茶を一口飲んだ。

実父に関しては、本当になんも言えねえ。


「それじゃあ、本題に入りましょうか。ーー天真」


「はい」


と、母上が左後ろに控えてる天真さんを呼ぶ。天真さんは、いつの間にか用意してたらしい銀色のアタッシュケースを机の上に置いた。

そして、あたしにその中身を見せるようにケースを開く。


中には、一万円札の束が敷き詰められてた。

これまた、ドラマとか漫画で見たことあるやつ。


「ここに、五千万あるわ。あなた、聞けば大学に行くために結構な借金をしたそうじゃない。ここの五千万の他に、その借金の返済も約束しましょう」


「……これで、朝倉先生と別れろって意味ですか」


「察しがいいのね。もう二度と、宗辰に関わらないで。あの子には、この家を継いでもらわなくてはならないの。あなたよりもっと相応しい人でないと」


なんだか笑えてきた。

なにこれ、なんなのこの茶番。

馬鹿馬鹿しい。


あたしがくすくす笑うと、母上と天真さんが怪訝な目で見てきた。


「あーあ、ほんと、お変わりないですね。相変わらずです」


あたしが四歳の頃から、この人はなんにも変わってなかった。

差別主義者で、汚くて、浅はか。

あたしの大っ嫌いな人間だ。


「子どもは、親の所有物じゃない。朝倉先生があたしを好きでいてくれるなら、あたしはどんな大金を積まれようと別れるつもりはありません」


と、今度は母上が笑い出す。


「あなた、本気で宗辰に好かれてるとでも思ってるの?おめでたい人。あなたみたいな穢れた家の娘に、宗辰が本気なはずないじゃない」


「あなたたちから見れば、あたしは憑き物家の娘だし、妾の縁者で穢れてるのかもしれない。でも、あたしはそれでも好きだと言ってくれた先生を信じます。それでも、無理やり別れさせるのであれば、あたしはーー」



「全てを捨てて、あの人の妾になります」



今なら、少しだけおおばあ様の気持ちがわかるような気がする。

きっと、おおばあ様も、周りから反対されればされるほど、燃えるタイプだったに違いない。

あたしにだって、おおばあ様の家族という意地がある。

ここで、このくそババアに言いくるめられるのは癪だった。

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