三人称
334
指先に怒りを込めて天真に電話をかけるも、天真はそんな宗辰を嘲笑うかのように出なかった。
写真に写ってたあの背景は、宗辰の実家の部屋だった。
なるみは実家に連れて行かれたらしい。
宗辰は心底朝倉家に嫌気がさしていた。
あの人たちは、自分の思い通りになるのであればなんでもする。
人を傷つけることさえも厭わない奴らだ。
わかっていたのに、なぜなるみさんをそばに置いてしまったのか。
なぜ、あの時、支えたいと言ってくれた彼女を抱き締めてしまったのか。
宗辰は後悔しながら、巧に電話をかけた。
『はい、巧です』
「俺だよ。悪いんだけど、少し頼まれてほしいことがあるんだ。花村さんに連絡して、なるみさんの家の住所を知らないか聞いてくれる?」
『なにか、あったんですね』
「見事にやられた。朝倉家を見くびってたよ。本当に、あいつらなんでもしやがる」
宗辰の口調は穏やかだったが、声は怒りに震えていた。
それは、朝倉家の人間に対しての怒りにではなく、なるみを守れなかった自分自身に対する怒りだった。
巧は、それを察したらしい。
暗い声で謝罪をした。
『……すみません。もっと、早く宗辰さんに伝えるべきだった。俺の同僚が、月川さんが駅で誰かに突き飛ばされているのを見ていたそうです。この間、一緒に飲んだ時も、月川さんは朝倉家に雇われた探偵に尾行されていました』
ああ、そうだ。
あの子が、朝倉家に傷つけられて、俺を頼るはずがなかった。
あの子はそういう子だ。
様子がおかしいことには気づいていたのに、心のどこかで自分を頼ってくれると思って待ってた。
……そうか、今日、なるみさんはこのことを話したかったのかもしれない。
やはり、休んででも会いに行くべきだった。
『花村さんに聞いてきます』
「ああ、頼む」
宗辰は一度電話を切った。
もし、バイトを休んで会いに行ったとして、俺になにができただろう。
朝倉家の話をしたところで、嫌なことを思い出させるだけだったろう。
いや……俺は朝倉家のことを話したことで、なるみさんにあの日のことを思い出させて嫌われるのが、怖かった。
俺もあの人間と同じ血が流れてると知ったら、なるみさんはきっとーー
どうしても、もう、離したくなかった。
だから、どんなことをしても、朝倉家には近寄らせたくなかった。
でも、俺が朝倉の人間である限り、あの子は傷つき続ける。
わかっていたのに。
ーー結局、俺もあの人たちと同じってことか。
宗辰は、自嘲して車をなるみの家がある平塚へと発進させた。




