33/416
クロエのオードパルファム
33
「で、朝倉。こっちが……」
と、柳原先生があたしのことを紹介しようとしたところで、朝倉先生はぽつりとこんなことを呟いた。
「クロエ」
……は?
「は?」
柳原先生もようやく不審に思ったらしい。
訝しげに朝倉先生のことを見つめてる。
「クロエのオードパルファム」
やばい、虚ろな目でこの人なに言ってんの。
超怖い。
クロエのオードパルファム?
……って、あたしがつけてる香水のことだ。
無駄な足掻きと理解しつつも、女子力向上のためお守りみたいにいつもつけてる香水。
いや、でもそれがどうしたんだろう。
「月川さん、朝倉のこと知ってるの?」
「知りません。初めて会いました」
「ああ、覚えてないんですね」
朝倉先生は一人でそう納得すると、眼鏡を外して髪の毛をなでつける。
「思い出しましたか?」
「……!!」
あたしは、その人を知っていた。
朝倉宗辰は、昨日ホームで会った酔っ払い男だった。