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人とは

325


ーーコンコン。


と、ノックが鳴った。

途端、天真さんはあたしを無理やり引き起こす。


「げほっ……ごほっ……」


あたしは涙を流しながら、必死に酸素を求めた。


「はあい」


ノックに返事をする間延びした声は、既に桜花さんのものだった。

扉を空けて、花魁バーテンが酒を運んでくる。


「お酒持ってきましたよー。あらら、お風邪ですか?」


「そうみたい。さっきから咳止まらないみたいで。なるみん、もう帰った方がいいわ」


「残念。でも、お大事にしてくださいね。治ったら、またぜひいらしてくださあい」


あたしは、花魁バーテンにまともに返事もせず、ふらふらと立ち上がって店を出た。


店の出入り口で、見送りの天真さんから五千円札を差し出される。


「交通費です」


あたしは、きっと睨んで五千円札を持つ天真さんの手を払った。

五千円札が、宙を舞う。


「あなたの言うように、あたしは穢れてるのかもしれない!でも、朝倉先生は……あの人は、あんたたちなんかとは違う!!あの人は、あたしを好きだって、言ってくれた!こんな穢れたデブスでも、好きだって言ってくれたんです……!」


泣きながら訴えるあたしを見て、天真さんは目を伏せた。


「人はね、いくらでも嘘をつける生き物なんですよ。これ以上、痛い目を見たくなければ、兄上と別れなさい」


あたしは無言で天真さんに背をむけ、逃げるようにして階段を駆け下りた。


ーーーーーー


天真は月川なるみが視界から消えると、端末で電話をかけた。


「……天真です。計画どおり、先ほど月川なるみと接触しました。兄上は話してはいないようでした。……はい、そのように。……では」


電話を切り、深いため息をつく。

先ほど、月川なるみに言った自分の言葉が耳にこだましていた。


ーー人は、いくらでも嘘をつける生き物、か。

そのとおりだな。

……私は、嘘の塊だ。


なぜ、こんなことをしてるんだろう。

こんなことをしたところで、さなえが戻ってくるはずなどないのに。

あの人から、愛されるはずもないのに。


それでも私は……もう、後戻りはできない。



ーーねえ、さなえ。

どうして、私を選んでくれなかったの。

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