調子乗っちゃったな
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奥の部屋は、控え室兼衣装部屋みたいな座敷になってた。
部屋の中央には、掘りごたつがある。
「座って座って」
「お邪魔します……」
あたしは部屋の前の下駄箱に靴を突っ込んで、部屋の掘りごたつに足を入れる。
あったかあい。
「素敵なお店ですね。正直、もっといかがわしいお店かと思ってました」
「うち、過激なのは衣装だけよ。キャバクラとは違うから、お客さんと同じ席には絶対座らせないしね。ーーところで、兄貴とは順調?って言っても付き合ってまだ二日くらいしか経ってないもんね?」
桜花さんはあたしの向かい側に座って、矢継ぎ早に質問してきた。
「今までどおりです。ーーあれ、桜花さん、兄上って呼ばないんですか?」
あたし、結構桜花さんの兄上呼び好きなんだけど。
「ああ、あれは家族の間だけの呼び方だから。父上、母上、兄上って、今時おかしいでしょ」
と、桜花さんは照れたように笑う。
「そんなことないです。かっこいいなって思ってました。……あの、あたしの前でも兄上とかって呼んでもらえません?なんか家族に混ざれたみたいだし」
……あ、図々しかったかな。
桜花さん、目丸くして黙っちゃった。
「い、嫌だったらいいです。すみません、図々しいこと言いました」
義理のお姉さんって紹介されたくらいで、調子乗っちゃったな。
「本当に、家族になってくれるの?」
その言葉に顔を上げると、桜花さんは複雑そうな表情を浮かべてた。
眉を八の字にして、喜んでいいのかそれとも悲しむべきなのか、わからないというような顔。
あたしは適当なことは言えないと思って、言葉を選ぶ。
「もちろん、なれるならなりたいです。まだ、先になるかもしれないけど。桜花さんみたいな人と家族になったら楽しそうだし、メイクとかおしゃれについて、いろいろ教えてもらえそう!むしろ、桜花さんの方がお姉さんみたいですね!」
後半は率直に思ってることを言うと、桜花さんは急にあたしのそばに寄って、ひしっとあたしを抱きしめた。